今、注目される日本のデザイナー達Ⅳ~坂寄 順子(さかよりじゅんこ)~

シャープで立体的なデザインが、高品質なブランド力を感じさせる


坂寄順子氏 参照:https://www.mode.ac.jp/cross/report/28949

坂寄順子氏は、2003年に自身のブランドである「サカヨリ(sakayori)」を立ち上げました。美術短大と、服飾の専門校であるモード学園で学び、アパレル業界では、パタンナーとして活躍。その経験を活かした特徴的なデザインセンスは、多くの人を驚かせています。

パタンナーとして培った技術が光るデザイン

女子美術大学短期大学部で学んだ後、大阪モード学園で服飾の勉強をした坂寄氏は、まず、大手のアパレル企業に就職します。そして、その後の転職先に選んだのが、日本を代表する世界的なブランド「コム・デ・ギャルソン」でした。
世界で注目されるブランドで坂寄氏が担当していた職業は、パタンナー。デザイナーがイメージしたデザインを具現化するために必要不可欠なパートです。2次元的にイメージされたデザイン画を、3次元に変換して人間の身体にフィットするようにパターンをつくる必要があり、洋服の構造を熟知した職人的な側面もあります。
そのパタンナーとして経験を積んだ坂寄氏が独立し、展開する「サカヨリ」のアイテムは、やはりパタンナーとして培った技術が活かされたラインナップでした。高度なパターン技術によって演出されるエレガントな雰囲気。そして、独特の立体的なフォルム。パタンナーらしく、洋服の構造とデザイン性を緻密に計算し尽くしたコレクションは、独立の直後から、業界内でも多くの注目を浴びました。

コロナ禍で考えさせられた「服づくり」

2019年の3月には、「サカヨリ(sakayori)」を坂寄氏が主宰するデザイン会社「GOAT-ee」から、多くのブランドを運営しているビギグループへ事業移管します。また、同時に新素材を多用した「ジードット(g.)」ブランドの展開も同グループで始まりました。
従来から坂寄氏はビギグループブランドのデザインを担当するなど、良好な関係性がありましたので、事業移管は、その関係性をさらに深めていくことからおこなわれたと考えられます。
ただ、その後に世界中を襲ったコロナウイルス感染症は、坂寄氏にも大きな影響を与えたようです。母校であるモード学園のインタビューでは、次のように話しています。
「アパレル業界全体の話でいうならば、以前から抱えていた問題がコロナ禍で浮き彫りになったと感じています。過剰生産に大量廃棄、季節に合ないセールなど、誰もがおかしいと気づいていながら踏襲してきたやり方を、今こそ見直すべきだと思いますね」。
この考え方は、2021年からの彼女が進む道を暗示している言葉でした。

2021年から新たなる展開に挑戦

2021年の春、坂寄氏が代表を勤める「GOAT-ee」はビギグループから独立し、「ダブルエムジードット」「アリオスキー」を立ち上げました。台東区蔵前にアトリエを開き、「物作りの現場に近いところから、自分たちが取り組んでいることを発信」し、卸売りと自社ECで持続可能なビジネスを目指しています。

男女兼用で、「機能美」がコンセプト


参照:https://wmg.co.jp/collections/wmg-2022ss-outer

「過剰在庫を作らずに、必要なものを作ること。セールに掛けずに、長く売っていけるものを大事にしたい」と言う坂寄氏の言葉通り、普段遣いの機能性に注目して、男女兼用の普段着を意識して「機能美」を実現しています。
そして、ブランド名である「ダブルエムジードット(wmj.)」にも、奥深い意味が込められています。「W にはWomanly女性的 Wonderment驚き、M にはMasculine 男性的 Modernism 現代主義、g にはGender 性別 Garment 衣服」。また、WとMはジグザグで繋がることで女性と男性の境をなくした多様性を表現していると言います。

環境に配慮した服づくりを目指す


参照:https://wmg.co.jp/collections/wmg-2022ss-tops

坂寄氏が展開する新ブランドの大きな特徴は、機能性素材を使用していることです。例えば、襟ぐりなどに付着しやすいコスメや皮脂の汚れ、「コスメレペレント素材」を使用したシャツなら、そのような汚れを防いでくれます。「普段着」として、優れた撥水・撥油加工で、日々の生活の食事や作業での水分や油汚れから衣類を守り、汚れだけでなく汗を吸い込まないことで匂いが吸着しにくく汗シミが出にくい嬉しい機能を兼ね備えています。
そして、環境問題にも貢献する素材として、生分解ポリエステルである「クラフトエボ・リテ」を生かした「コンポスタブル」シリーズも展開しています。一般的に分解するのに数百年かかるとも言われるポリエステルですが、「クラフトエボ・リテ」は、短期間に水と二酸化炭素に分解、二酸化炭素量は燃焼させるよりも40%少なくなります。さらに、この素材を使用している商品は、同社で回収し、環境負荷を抑えたかたちで処分します。
さまざまな要因で、価値観が変化しつつある現在、環境負荷の軽減や持続可能な社会の実現には、アパレル産業においても、坂寄氏のような考え方が主流になってくるかもしれません。