今、注目される日本のデザイナⅫ~MUG(マグ)~

自分の思ったことが、形になる喜び


マグ氏 参照:http://www.thewallpapertokyo.com/blog/?p=57

マグ(MUG)氏は、1971年生まれで、ブランド、ジーヴィージーヴィー(G.V.G.V.)のデザイナーを務めています。彼女がデザインする服は、サブカルチャーを一貫したテーマに据えてシーズンごとに多彩なモードを展開しています。「自分が思ったことが形になった時」が何よりも幸せに感じるというマグ氏。メディアへの露出は少ないデザイナーとして知られていますが、今回はさまざまな角度からデザインに関する考え方などを探っていきたいと思います。

小学生の頃から多様なファッションに興味

マグ氏は、小学生の頃からファッションに深く興味を持っていたと言います。象徴的なエピソードとして、マグ氏こう語ります。「小さい頃から最先端の流行がすごく好きだったのかもしれません。小学校の頃、原宿で流行っていたフリルのついた大きなつけ襟をつけて登校したこともあります。地元の福岡でそんなものはまったく認知されていなくて、同じクラスの男の子に変だ、と笑われてしまいました」。
このように10代の頃から、何が流行をしているかということを察知するため、マグ氏はテレビや雑誌、そして音楽など、あらゆるカルチャーに触れることで独自のデザインをつくり上げています。その中でも特に影響を受けたのが、音楽系のストリートカルチャーでした。
当時流行していたセックス・ピストルズやカルチャー・クラブなど、音楽から派生したカルチャーやファッションに大きな刺激を受けて、ジェンダーレスなデザインなど、現在に続く感性が育まれたのです。

セレクトショップのスタッフからデザイナーへ

高校卒業後、マグ氏は東京の桑沢デザイン研究所へと進学します。在学中も音楽好きは変わらず、ライブやクラブに通い、さらにマグ氏のデザイン感性ははっきりと形になっていったようです。
桑沢デザイン研究所を卒業して入社したのは、代官山にある「grapevine by k3」というセレクトショップでした。マグ氏も最初はデザイナーとして入社したのではなかったのですが、会社の代表に勧められたのがきっかけで「G.V.G.V.」をはじめました。それが1999年のことです。2003年には東京コレクションに参加、ショップには100人以上が並んだという人気のブランドになっていきます。その後は海外でも、そのデザイン性は認められて、2014年には発表の拠点をパリに移し、主に展示会を中心として新作を発表しています。

変化してゆく時代もクリエーションを譲らない


参照:http://www.gvgv.jp/collections/ss22/

新型コロナ感染症が出現して以来、世界は大きく変化しました。そして、今後もコロナ以前とまったく同じではなく、さらに変化してゆくとも考えられています。その中にあって、ファッション業界も多くのブランドが時代への対応に取り組んでいます。マグ氏も多くのジレンマを抱えながら、前向きに今後の展開を語っています。

カテゴライズされない服づくり


参照:http://www.gvgv.jp/collections/ss22/

マグ氏は今後のトレンドの主流になることについて、自身のデザインでも多く手掛けている「ジェンダーレス」をあげています。男性、女性の隔てなく着られる服、既成のカテゴライズは衰退して、これからはさらに自由な発想のモードが生まれると感じているようです。
「ジェンダーレスなファッションの時代がもっと来ると思います。私はファッションや生き方における男女の境界線は絶対になくなった方が良いと思っています」との言葉通り、自らもその境界線をなくすことに意欲的に取り組んでいます。

「こだわり」を維持しながらビジネスも守る


参照:https://k3coltd.jp/item.html/1

一方、ビジネス面では、さまざまな葛藤もあるようです。現在の状況では新型コロナ感染症の影響は軽微と言いますが、常に危機感は持ち続けています。
「ウィメンズのマーケットでは、柔らかい素材の部屋着やリモートワークに沿ったカジュアルウェア、ロゴを付けたアイキャッチを惹くアイテムが求められています。でも【G.V.G.V.】はこうした服は作っていません。私自身がメンズライクなジャケットやロゴのないスタイリングが好きなので、ここは譲れない」と語ります。そして、「ブランドの個性と直近の売り上げ、このせめぎ合いが、新型コロナ禍でさらに難しくなっています。多くのデザイナーズブランドが悩んでいると思います。それでもクリエーションを守ることがブランド継続への道だと考えています」とも語り、ブランドのこだわりとビジネスの両立を推進していく考えを貫いています。
個性を重視してきたマグ氏にとって、厳しい時代かもしれませんが、個性的でも良いデザインは必ず受け入れられるはずです。「マーケットに迎合せず、ブランドの根幹を守りたい」との言葉どおり、今後も活発な展開が期待できるデザイナーと言えるでしょう。