デザイナーは、皆が有名なハイブランドで活躍しているわけではない。この記事では、ネットを中心に活躍しているデザイナーさんたちを特集します。
(tendresse epineさん公式Twitterより引用)
今回はtenderesse epine(テンドレス・エピーヌ)のデザイナー・内野えみさんにお話を伺いました。内野さんは2007年から活動を始め、現在に至るまでご自身が立ち上げたブランドの商品すべてのデザインを担当しています。こちらのブランドでは、オールハンドメイドでお仕立てをされているとのことで、非常に希少価値の高い商品が揃っています。モードでフェミニン、まさに「大人かわいい」の王道を行くブランドです。リボンマフラーをはじめとする様々なヒット商品を生み出すその手腕と、ハンドメイドならではの服飾デザインの世界観をじっくりとご堪能ください。
(tendresse epineさん公式Twitterより引用)
――ブランド創設のきっかけは、どういったものだったのでしょうか。
内野さん : アパレルの販売員をしていた頃、自分が服作りから遠ざかっていて、ミシンを触っていない事に気付き、その時に改めて自分は「服作り」が好きなのだと思いました。
ちょうどその頃にネットショップなどが出てきた時期だったので、自分でブランドを作って自分で販売してみてもいいかも……無理だったら辞めたらいいし、と軽い気持ちで2007年に始めました。現在のように売れる前までの間、最初はアルバイトをしながら制作していました。
――メインのターゲット層にしている年代や性別はどこですか?
内野さん : ターゲットを年齢では決めていなくて、可愛くて女性らしいデザインが好きな方、その中でも奇抜すぎるのは嫌だけど、ちょっと周りと差を付けたい……そういったマインドを持って、オシャレを楽しんでいる女性に向けて制作しています。
(tendresse epineさん公式Twitterより引用)
――ご自身の手がけた商品で、気に入っているものはありますか?
内野さん : 人気商品でもあるビッグリボンマフラーです。誕生のきっかけは私自身がマフラーをリボン巻きにしていたことなのですが、毎回結ぶのが大変で。最初からリボンになっていたらいいな、と自分で思い、実際に作ったのが始まりです。残りの生地で作った分を試しに販売してみたら反響があり、そこから毎年販売するようになりました。リクエストにより色展開もどんどん増えて、本当にたくさんの方に愛して頂いている商品に成長しました。本当にリボン結びをして巻いているように見える所がこだわりです。一見大きなリボンでインパクトはあるのですが、甘辛ファッション、ロリィタファッションが好きな方から着物を着られる方まで、どんな服にも合うのが強みです。
商品の詳細はこちら。
《アイテム概要》
冬は巻いてボタンで留めるだけで簡単に可愛くリボン巻きができるリボンマフラーやリボンストールを販売しています。
(tendresse epineさん公式Twitterより引用)
――ブランドの魅力はどこにあるとお考えでしょうか?
内野さん : デザインのベースは可愛らしさや女性らしさなのですが、そこに少しモードな感じとカッコ良さを入れるのが得意で、そこがブランドの魅力だと自分では思っています。ありそうで無いデザインの洋服を製作しているのだと自負しています。
――制作時に気をつけていることはありますか?
内野さん : ただ可愛いだけにならないようにしています。リボンやフリルなら何でもいいというわけではなくて、リボンの形、フリルの位置や分量などにこだわっています。そのこだわりの積み重ねが良い服になっていくと思っています。
(tendresse epineさん公式Twitterより引用)
――こんな課題に取り組んでいる、という発信があれば教えてください。
内野さん : 制作も販売も、全て個人で運営しているので、この先もっと商業ベースに乗せていくのが今の課題です。そして認知度の向上と、ブランディングの構築を目指しています。
――いまファッション業界では「サスティナブル」を標語として、古着や一点物に価値を見出す人が増えています。そういった人たちに対して、ブランドでどのようにアプローチしていくか、現時点でのお考えはありますか?
内野さん : 個人的には、サステナビリティをファッションの中で実現していくのは、商品を販売していくうえで消費と対局にある存在だと考えています。でも、難しいけど取り組むべき課題だとも思っております。その中でも限りある資源を活用するなかで、地球の他の生命と共存する、小さなブランドでも実践可能なこととして、できるだけ長く大切に使って頂けるような縫製に気をつけたり、特にお買上げの際には長持ちするお手入れ方法など詳しくお伝えしたりするようにしております。
お客様自身が「この洋服を大切にしたい」と思ってくださるブランディングにも力を入れていきたいです。そういった活動が実を結べば、商品に愛着が生まれ、長く大切に使って頂けて、結果的にサステナビリティに繋がると考えております。
(tendresse epineさん公式Twitterより引用)
――ファッションを通して伝えたいことは何ですか?
内野さん : 楽しんでほしい! のひと言です。年齢や周りの目や性別など、気になる事がたくさん出てきてしまうと、オシャレをしないで済む言い訳って簡単に出来てしまいますよね。けれど、ファッションは本来誰のためでもなく、自分のために楽しんで幸せになれるものだと私は思っています。テンドレスエピーヌのお洋服で、楽しい一日で過ごせるようにお手伝いがしたいです。
tendresse epineというブランドは、今でこそデザインフェスタなどの即売会でも毎回人気のブースになっているのですが、最初は個人の小さな希望、それも「洋服を作りたい」という「好きなものに対する情熱」から生まれていました。それがここまで成長する、その事実にびっくりしますし、並々ならぬ努力が窺えます。そして、その「好きなものを形にする」という情熱を忘れずにいられるクリエイター、デザイナーがこの業界に新風を吹き込んでいくのだ、と考えました。大きなブランドで働いているデザイナーさんが全員初心を忘れているとは思っていませんが、自分で作るからこそわかること、たとえば「こんなものが好き」「これがわたしのこだわり」と胸を張って言える尊さを、内野さんは表現してくださいました。可愛いだけじゃない、カッコよさやモードな感じを取り入れるというお話ひとつとっても、昨今の流行に流されない力強さを感じますし、「ありそうでない」を作ることの難しさや大切さも思い知らされました。個人で作る、その純粋な想いに心を打たれます。
個人で運営されているからこそできること……自分の思い通りの製作ができるというメリットの反面、ブランディングやエシカルファッションへのシフトチェンジなど、個人の力だけではできないこともあって、大変に悩ましい課題も見えてきました。個人経営のブランドさんは皆ぶつかる壁なのかもしれませんが、こうした媒体が見つけて、拾い上げて、広く知ってもらうこともひとつの支えになればと思います。長く使う、長く愛する。その行為もサスティナブルな行動のひとつ。このブランドも含めて、お洋服にどう向き合うか、という我々消費者側の課題もあるようです。
今回インタビューをさせていただいて、デザイナーさんの思考がちょっと覗けたような気がしています。というのも、コンセプトがはっきりしていて、それに向かって「具体的に」アピールしたいポイントや商品の細部を決めていく、そんな発想をされているのだと気付かされました。個人営業でもこのレベルですから、大手などは推して知るべし……ですね。今後もこのブランドをはじめとする、個人で運営されているデザイナーさんをどんどん取り上げていきます。
ライティング:長島諒子