デザイナーは、皆が有名なハイブランドで活躍しているわけではない。この記事では、ネットを中心に活躍しているデザイナーさんたちを特集します。
今回は、イヤリングやヘッドドレス等の異国情緒漂うアクセサリーをはじめとするファッションアイテムを多数制作し、独特の世界観で商品を数多く生み出しているブランド・APOLIA(アポリア)の藤崎彩さんにお話を伺いました。2021年11月22日にブランド創設10周年を迎えたAPOLIAですが、そのアイテムはまさに日本発・kawaiiカルチャーの象徴的な存在であり、固定ファンの方も多くいらっしゃいます。服飾デザインを専門に扱う藤崎さんの手によって、最近ではチョーカーやフリルガーターベルトなどのアクセサリー類が、デザインフェスタや原宿のポップアップストアで販売されています。その作品群はエキゾチックで神秘的。キュートさの中に豪奢で妖艶な美しさが見え隠れする、その作風の源泉をたどります。
(出典:APOLIA公式Twitter)
デザイナー略歴
APOLIA・藤崎彩
女子美術大学ファッション造形学科卒。
卒業後、創作活動をしながら「APOLIA」の前身となるブランド「APORIA」を創立。後にR表記をLに変更しファッションブランドとして活動を開始。
――ブランド創設のきっかけは何ですか?
藤崎さん : 私はもともと、衣装やセットを制作し、撮影して写真作品を制作するという一連の表現方法が好きで、それで作品制作を行なっていました。
ただそのような創作方法を、仕事にして食べていくのは難しいだろうと思い、それであれば衣装やセットで表現したい世界観を、服飾やアクセサリーに落とし込み、手に取りやすい作品として販売して、その売上で自分のやりたい写真作品を制作する……という循環を作れば良いかなと思い立ち、APOLIAの前身のAPORIAとして活動を始めました。
――メインのターゲット層はどこですか?
藤崎さん : 20〜30代です。
ブランドで気に入っている商品はありますか?
藤崎さん : 極東の踊り子チョーカーとピクニックヘアバンドです。
前者はAPOLIAのイメージをある種確立してくれたアイテムで、後者はAPOLIAのスタンスを上手く商品化出来たアイテムです。
商品の概要はこちら。
《アイテム詳細》
「極東の踊り子チョーカー」
極東の移動ステージで活躍する踊り子たちをイメージした”極東の踊り子”シリーズ。
派生グッズもあります。
(出典:APOLIA公式Twitter)
「ピクニックヘアバンド」
(APOLIA的に)できる限りシンプルに、幅広いファッションの方に着用して頂くため、りぼんなどの装飾はあえてつけずに刺繍りぼんとフリル、小さな巻き薔薇だけ装飾として添えています。
(出典:APOLIA公式Twitter)
――ブランドの魅力はどこにあると思いますか?
藤崎さん : これはすごく難しくて、回答に悩んでしまったのですが、唯一言えるとしたら「持ち主の方の生活を彩る、人生を彩る作品」というところでしょうか……。
あとは多国籍であり無国籍、何処かの国のようで何処にもないテイストのアイテムが魅力かなと思います。
――制作時に気をつけていることはありますか?
藤崎さん : 装飾美と取り入れやすさのバランスです。あくまでブランドとしてのAPOLIAは、ファッションアイテムを制作するというスタンスなので、お洋服にコーディネートしやすいさじ加減を大切にしています。
(もちろんテーマによって衣装的なアイテムを作ることもあります)
あとは、あまり重いテーマや強い想いみたいなものは込めず、出来るかぎり情景的なものをテーマに制作しています。物に込める想いは、購入してくださったお客様自身が持ってくれたら良いですし、身につけるものに製作者の念のような物が込められていると、かえって身につけづらいなと思うので。
――今取り組んでいる課題はありますか?
藤崎さん : 課題というわけではないのですが、APOLIAのスタンスとして年齢・性別・ファッションスタイルに関係なくAPOLIAのアイテムを身につけて欲しいというものがあり、そんな思いで制作しています。
「こういうアイテムはこういう人が身につけるものだ」という固定観念を取り払うことで、より自由にファッションを楽しめると思うので、作品だけでなくなるべく言葉でも発信しています。
お陰様でAPOLIAのお客様は、レイヤードスタイルの方やコンサバな方、着物を着る方、男性、ジェンダーレスな方や、親子で一緒に楽しんで下さる方など本当に多様なお客様にご愛顧頂いていて、個人的にはそれが一番嬉しいことです。
――ファッションを通して伝えたいことは何ですか?
藤崎さん : ファッションは夢と力に満ちあふれています。
袖を通さなくても、身に着けなくても、ただお洋服やアクセサリーを飾って眺めるだけでも夢を見させてくれるし、心に力を貰えます。
ちょっと着けてみようかな、と思ったら身に着けてみれば良いと思います。楽しいですよ、好きなものを身に着けるファッションって。
(出典:APOLIA公式Twitter)
APOLIAさんの作品は、異国で購入した思い出のアイテムのような印象を受けるのですが、その根幹の部分にあるのは「好きなものを身にまとって生きる」「自分らしさを追求する」という「ファッションにおける自己実現への普遍性」があるのと同時に、「ほかのどのブランドを探しても、どこにもないオリジナリティの具現化」が美しいバランスで調和して表出されているからなのかな、と思いました。私もAPOLIAさんの作品を間近で拝見し、そして購入させていただきましたが、デザインも装飾も「どこのブランドにもない」独特の艶やかさを持っていて、手に取る瞬間にすごくドキドキするのです。でも、不思議と今着ている(あるいは好んでいる)ファッションのテイストに、ちゃんと調和することに驚きました。個性を引き立たせてくれる効果もあるのかな、なんて思ってしまいます。それはきっとジェンダー(性差)もボーダー(国籍)も関係なく、ファッションを楽しんでいく姿勢を、主体的に発信されていることが関係していると感じました。
(出典:APOLIA公式Twitter)
年齢や性別をはじめ、ファッションを選ぶ過程においては。いろいろな制約が生じてきます。でもその制約を課しているのは、もしかしたら自分自身や世間の「こうあるべき」という同調圧力なのかもしれないし、それを打ち破る力だってファッションにはあるはずなのです。だからこそ、藤崎さんの語る「すべての人に着用してもらえるようなアイテムを作る」精神は素晴らしいと感じました。衣服と個性は切り離せないからこそ、自分でどう演出するかも自分で自由に決められる。それならば、自分の着たいものを好きなように着ていい。デザイナーさんからそんな後押しを受けられたら、絶対に勇気が湧いてくると思いませんか? ファッションを全力で楽しむすべての人に向けたアイテムを手掛けているという点で、藤崎さんの作品群は唯一無二の存在ですし、それに救われている人もたくさんいるのではないかと思っています。
「その年齢で?」「その外見で?」……否定の言葉はいくらでもあります。だから自分の好きなものを表現することをためらう人は多いでしょうし、自己表現には勇気が要ります。それをデザイナーさんの側から「好きなように着てみてほしい」「手元にあるだけで夢や力を得られるから持っていていい」と発信したことで、ファッションを楽しむ気持ちになれる、何か励まされるということもあると思います。その点で私は藤崎さんの発信や表現活動によって救われる存在になったり、逆に藤崎さんを応援したくなったりします。そういう相互補完の関係に、デザイナーさんと消費者がなれているところがAPOLIAというブランドの底力なのかなと感じました。今回は取材協力ありがとうございました。
(ライティング:長島諒子)