第2回 ファッションデザイナーの基礎知識:ファッションショー

ファッションデザイナーの基礎知識の第2回は、ファッションデザイナーが新作を発表する「ファッションショー」についてです。

ファッションデザイナーは通常ファッションショーと展示会を「春・夏」「秋・冬」の年に2回開催して新作を披露します。春夏シーズンの洋服は毎年10月頃、秋冬シーズンの洋服は毎年3月頃に発表していて、これに向けた準備を常に行っているのです。

ファッションショーに向けたスケジュール


ほんの一例ですが、ファッションショーに向けたファッションデザイナーのスケジュールをご紹介します。

★春・夏もののファッションショーに向けたスケジュール
2月頃:新しいデザインのコンセプトやテーマを考える
(3月:秋・冬コレクションの展示会・ファッションショーが開催される)
4月頃:使用する素材の選定を始める
6月頃:ファッション画を描く
7月頃:パタンナーにパターン制作を依頼する
8月頃:トワルチェック。ファッションショーの舞台演出、ヘアメイク、音楽構成なども平行して行う
9月頃:サンプル制作。コレクションの構成をプロデュース
10月:モデルオーディション。サンプルアップをコーディネート
春・夏コレクションの展示会・ファッションショー本番!

★秋・冬もののファッションショーに向けたスケジュール
7月頃:新しいデザインのコンセプトやテーマを考える
9月:使用する素材の選定を始める
(10月:春・夏コレクションの展示会・ファッションショーが開催される)
11月:ファッション画を描く
12月:パタンナーにパターン制作を依頼する
翌年1月:トワルチェック。ファッションショーの舞台演出、ヘアメイク、音楽構成なども平行して行う
2月:サンプル制作。コレクションの構成をプロデュース
3月:モデルオーディション。サンプルアップをコーディネート
秋・冬コレクションの展示会・ファッションショー本番!

大切なコレクションに間に合わせるために、半年以上も前からアイディアを形にしていく作業が行われていることがわかりますね。
春・夏ものと秋・冬ものの制作を通年行うので休む間はありませんし、新作発表が終わったらまたすぐに次の展示会に向けた準備を始めることになります。

 

世界と日本のファッションショー


ファッションショー・展示会といった、ファッションデザイナーの新作発表の場のことを日本では「コレクション」と呼んでいます。
海外では数日間にわたって行われるイベントであることから、「ファッション・ウィーク」とも呼ばれています。

世界の5大コレクション

ファッションショーには高級仕立服のオートクチュール・コレクションと高級既製服のプレタポルテ・コレクションがあります。
1950年代まではオートクチュール・コレクションが中心となって、毎年1月と7月の年に2回開催されていました。
これはパリコレクション(パリコレ)と呼ばれていたのですが、1960年代になるとオートクチュールに変わってプレタポルテが広く普及するようになったため、パリコレといえばプレタポルテ・コレクションを指すようになりました。

このプレタポルテ・コレクションは、パリをはじめ、ニューヨーク、ミラノ、ロンドン、そして東京でも開催されます。これらの5つのコレクションは”世界の5大コレクション”と呼ばれています。

 

ファッションショーに招待されるのは誰?


従来のファッションショーに参加できるのは、ブランドから招待されるジャーナリストと一部の顧客で、現在のようにネット配信も行われていませんでした。
ショーは閉ざされた空間で行われるものであり、参加できることは一部の人たちの特権でもあったわけですね。

書籍「不易と流行のあいだ: ファッションが示す時代精神の読み方(菅付 雅信著)」では、著者の菅付 雅信氏は、パリコレ会場でアメリカのヴォーグの編集長アナ・ウィンター編集長(当時)が最前列の席に着席するその瞬間までショーのスタートが待たされたことを何度か経験していると書いています。ここではショーの主役は招待客の編集長だったのでしょう。

では、現在のファッションショーの招待客は誰なのでしょう。
メディア関係者ももちろん招かれますが、セレブと呼ばれる人たちやSNSのインフルエンサーなど、本来はファッション関係者ではない人たちも招かれるようになっていて、ファッションを本職としている業界人よりもバズメイカー(いろいろなメディアで大きな話題を振りまく人)が立場を上にしてきているという現象が起きています。

もっと突っ込んで言ってしまうと、ショーが「服を見せる」ことよりも「服を流行らせる」ことに重きをおいたものに変わってしまったと言っても良いでしょう。
ショーのオンライン化も進んでいて、招待されなくとも誰でも見ることができるようになり希少性もなくなっています。少しさみしい気がもしますし良いことばかりでもないように感じますが、これも時代の流れです。

 

新しいスタイルのファッションショー:東京ガールズコレクション


近年の日本のコレクションでは2005年8月から始まった「東京ガールズコレクション(TGC)」があります。

東京ガールズコレクション(TGC)の新しさ

モデルが新しいデザインの服を着てランウェイを歩くファッションショーは、ネット、雑誌などでも大きく取り上げられます。これらの新作情報は一般の人の購買意欲にもつながるという役割もあり、パリコレなどの従来型のコレクションではマスコミやバイヤーなどの服飾関係者を招待して新作を紹介することを大きな目的にしていました。

TGCでは高いファッション性がありながら価格的にも手が届きやすく、日常で着ることができる服「リアルクローズ(現実性のある服)」を中心に発表していて、リアルクローズを日本の文化として輸出することを目的として開催しています。

TGCが対象にしているのはファッション・ピープルだけではなく、10代後半から20代のごく一般の人たちで、会場ではその場で洋服を販売する小売りも行っています。
モデル・タレントに着せた洋服を音楽にのせて会場で見せて、同時にネット配信しながらリアルタイムでネット販売を行うという大規模イベントになっています。

音楽や最新の文化との融合も面白く世界的にも非常に好評で、第1回から第3回までは東京の代々木第一体育館での開催でしたが、4回目以降は横浜アリーナ、さいたまスーパーアリーナ、沖縄、名古屋、中国 北京でも行われました。
さらに2006年のパリ ジャパン・エキスポでも開催され大変な好評を博しました。

 

ファッションショーはデザイナーのアーティストな部分を見られる楽しいイベント


ファッションショーの写真や動画を見ると、「こんな服、誰がどこで着るの??」としか思えないような奇抜なものばかりと感じたことはありませんか?笑
ショーに登場する服は、デザイナーの発想や、そのシーズンに打ち出したいイメージや概念を形にしているものが多く、商品化を目的としていません。
誰がどこで着るの?と不思議に思う服ばかりが登場するのは当然のことなのです。
また、実際に売り物となる新作の洋服を1点ずつ手にとって丁寧に見るなら、ショーよりも展示会の方が向いています。

では、ショーはなんのために開かれるのでしょうか。

莫大な費用をかけてショーを開催するのは、服飾の持つ芸術性やファッションデザイナーの実力、アーティストとしての部分を一般にアピールするという意味もあります。

大きなファッションショーでは、一流のデザイナーが勢ぞろいして新作を発表します。それは当然ファッション業界に与える大きな影響力となりますし、若いデザイナーの大きな目標になります。
ファッションショーはまさに「ショー」であり、見せるため、印象付けるための贅沢なイベントとも言えるでしょう。

また、そこに集まるのはファッションが大好きで、個性豊かなオシャレを楽しんでいる人ばかり。メディアはショーに登場するモデルだけでなく、参加者のファッションにも注目していて、雑誌で特集されるのも面白さのひとつです。

現在はネット配信も行われているとはいえ、招待状を持つ人のみが参加できるイベントという意味ではプレミア感もありますね。
新しい洋服との出会いの場であり、時代を開拓するファッションショーにぜひ注目してみて下さいね。