第3回 ファッションデザイナーの基礎知識:展示会

第2回ではファッションショーについて見てきましたが、今回はショーよりもビジネス感覚が強い「展示会」についてご紹介します。

ファッションデザイナーの展示会とは?


ファッションデザイナーが開く展示会は、新作デザインを発表する場で主にビジネスを目的としています。
ショーは洋服をアピールする場であり、ファッションデザイナーのアーティストな部分も見ることができましたが、展示会ではファッションデザイナーもビジネスマンとなって商談を行います。

会場にはサンプルと呼ばれるデザインの見本となる洋服を陳列します。
展示会に招待されるのは主に洋服の販売に関わっている小売店のバイヤーです。バイヤーは仕入れを担当していて、自分のお店で売りたい服、売れると思う服を仕入れるという重要な役割を担っています。

バイヤーの役割

ファッション業界のバイヤーは、アパレル企業やデパートなどに所属する仕入れ担当のこと。日本全国の展示会を飛び回って仕入れを行い、パリ、イタリアなどのヨーロッパ、アメリカまで行って取引をすることもあります。
中には服の買い付けだけでなく、東南アジアなどで生地を仕入れて日本に持ってきて、加工から販売まで関わるバイヤーもいます。

世界中にネットワークを広げなければいけないので、営業力も英語力も必要なお仕事になります。今みなさんが来ている海外ブランドの服も、どこかのバイヤーが世界を飛び回って仕入れてきたものかもしれませんね。

売買契約を結びます


ファッションデザイナー(または営業担当)とバイヤーが交渉をして、売買契約を結ぶのですが、このときファッションデザイナーはバイヤーから様々な希望を交渉されることになります。自分の思い描いていたデザインとは異なるものを要求されることもあるかもしれませんが、売上を考えるとデザイン修正が必要なときもあるでしょう。
展示会が終了したら買い手の希望にあわせてデザインを調整して、必要な枚数を縫製工場に発注して生産を行います。

メディア関係者も展示会に招かれます

展示会にはファッション雑誌の記者やファッション評論家といったメディア関係者も招待されます。
これらの人たちは、展示会で並んでいる洋服をシーズンが来る直前にそれぞれの媒体で記事にして、私たちに有益な情報を届けてくれます。

 

展示会の流れ

展示会はいつ開かれるの?

おおよその目安ですが、春・夏ものの展示会は前年の10月ごろ、秋・冬ものは同じ年の3月ごろに開催されます。

展示会の場所はどこ?

展示会は人が多く集まる都市圏で行われることが多いです。日本では東京や大阪ですが、海外で開かれることもよくあります。

多くのファッションデザイナーが自分たちで会場を確保して展示会を行っています。
自分のブランドだけで小規模の展示会を行う場合は、ワーキングスペースのような小さなスペースや貸し展示会場を利用することもあります。
複数のアパレルメーカーやファッションデザイナーがひとつの会場を共同で借りて大規模な展示会を開くこともよくあります。

 

展示会の準備


展示会に向けた準備は基本的に自分たちで行うことになります。
日程を決めて会場をおさえたら、そこから逆算して準備を進めます。
展示するサンプルを用意しておくのはもちろんですが、その他にも制作しておかなければならないことがたくさんあります。

▼必要な準備
・招待状
招待状を制作して事前に送っておきます。

・パネル、ポスター、カタログ、パンフレットなど
パネル、ポスター、カタログ、パンフレットなどを印刷物で制作するなら、展示会に間に合うように自分たちで作るか、外部の業者に発注することになります。

・音楽、映像など演出を考える
当日の演出もファッションデザイナーが中心となって考えます。
ブランドイメージや今季のコンセプトが伝わる映像を用意しておくと、来場者に伝わりやすいでしょう。

・ オーダーシート、サンプルタグ
受注をスムーズに受けられるようにオーダーシートを作成して、サンプルにはサンプルタグをつけておきます。

・ノベルティ
SNS映えするようなノベルティを用意しておくと、来場者がInstagramなどで発信してくれます。
センスある小物の制作もスケジュールに組み込んでおくと良いでしょう。

 

展示会当日の流れ

一例ですが、小規模の展示会当日の流れをご紹介します。

1.スタート時間の2時間~1時間半ほど前にサンプルを搬入
2.スタッフみんなでアイロンがけ
3.サンプルにタグをつける。(タグにはサイズ展開、カラー展開、素材、バリエーション、価格などが書かれています)
4.サンプル展示。ハンガー、テーブルなどに洋服を並べる。ボディに着せる
5.会場を装飾。ポスターやパネルを展示。壁にブランドロゴやショーの映像などを映すプロジェクターの準備
6.事前に撮影して作っておいた新作カタログ、パンフレットなどを会場に並べる。
7.会場オープン

 

ファッション専門学生・大学生でも参加できる展示会もある!


展示会はアパレル関連の人の商談の場になるため、デパートにショッピングに行くような感覚で参加することはできませんが、ファッション関連学校の学生であれば参加できるものもあります。
そのひとつが「FaW TOKYO (ファッション ワールド 東京)」です。

最新ファッション、シューズ、バッグ、アクセサリーなどの製品や、サステナブルな生地や素材などを扱う企業が出展する日本最大級の展示会で、世界中から23,000人が来場します。

2022年秋は10/18~10/20の間、東京ビッグサイトで開催されます。
事前に登録しておけば無料で招待券を送ってもらえますので、ファッションデザイナーを目指す学生の方は訪れてみてはいかがでしょうか。

 

ファッションショーと展示会の違い(まとめ)

★ファッションショーとは?
ファッションショーはブランドのプロモーションとメッセージ、デザイナーの芸術性、今シーズンのコンセプトなどを文字通り「ショー」という形でPRする場です。
ショーで行われることを一言で言ってしまうと、モデルが最新の洋服を着てランウェイを歩くこと。
中には観客として楽しめるようなパフォーマンスやアートな演出が行われることもありますが、始まってしまえば数十分で終わることがほとんどで、ここに数百万円~数千万円の費用をかけるわけです。
 
ファッションショーで披露される洋服を実際に見てみると「奇抜」と言えるものばかりが多いことに気が付くと思います。
ショーはビジネスの場でもありますが、ブランドが持つイメージやコンセプトを具現化して伝えることに重きを置いているため、日常的に着やすい服や売れそうだけどプロモーションにつながりにくいベーシックな服は発表されないこともよくあるのです。
 
実際、モデルが普段着を着てステージを歩いても、コーディネートの参考にはなってもブランドが発信したいことは伝わりにくいですよね。
 
「今季わたしたちは、こういうことを発信していきます!」
「次のシーズンで流行るスタイルとしてこれを提案します!」
と招待客に印象付けるためには、日常着ではなく奇抜で斬新なファッションの方が効果的なのです。
(ファッションショーの洋服を見て、「この服、誰がどこで着るの?」と思えてしまうのはこのためです)
 
ファッションショーはブランドのプロモーションと同時にファッションデザイナーの挑戦の場でもあるわけですね。

★展示会とは?
展示会は商談の場で、ショーで発表されなかった”売りやすい服”はこちらの展示会で発表されることになります。
展示会はブランドイメージを伝えるプロモーションではなく(そちらの側面もありますが)、幅広い層に受け入れやすいベーシックな服や販売用に加減した小売店が売りやすい服をバイヤーに買ってもらうための交渉の場なのです。
 
ここにはランウェイを歩いたモデルはいませんが、会場のスタッフやモデルに着用をお願いすることも可能です。
バイヤーやメディア関係者は洋服を実際に手に取って隅々まで吟味して、デザイナーは自らビジネスマンとなって売上アップを狙った交渉も行います。
 
ファッションデザイナーからすると、展示会は売るための服を見せてセールスをする場ということになります。

ファッションショーはブランドに興味を持ってもらうための華やかなイベント、展示会は実際に洋服を手に取ってもらって買ってもらうための商談の場という区別があるわけですね。
その場に応じて様々な能力と役割が求められるファッションデザイナーですが、それだけに大きなやりがいがある仕事になります。