第6回 ファッションデザイナーの基礎知識:縫製工場に発注して大量生産

年に2回(春夏もの・秋冬もの)のファッションショーと展示会でバイヤーと交渉が成立した新作デザインは、ここからいよいよショップでの販売に向けて大量生産に入ります。

ファッションデザイナーはパタンナーと一緒に最後まで丁寧にチェックと修正を行い、縫製工場に仕立てを依頼します。

 
ここまでの流れを簡単に復習すると、第2回 ファッションデザイナーの基礎知識:ファッションショーでご紹介したとおり、春夏シーズンの洋服は毎年10月頃、秋冬シーズンの洋服は毎年3月頃にファッションショーと展示会で発表されます。
そして、展示会ではバイヤーとファッションデザイナーが交渉をして次のシーズンに必要な新作を買ってもらうことになります。

この展示会ではバイヤーからさまざまな要望が出されるので、その要望にもとづいてデザイナーはパタンナーと一緒にパターンを直して工業用パターン(量産用パターン)を作ります。

最終的な調整が終了したら、次はいよいよ実際に販売する洋服を大量生産するために縫製工場に発注をかけます。

 

大量生産を行う縫製工場


新作デザインを大量生産するのは国内外の縫製工場で、必要な分だけ発注をかけて納品を待つことになります。

縫製工場の仕事

縫製工場ではファッションデザイナーとパタンナーからの指示に従って縫製工と呼ばれる職人が縫製作業をします。
裁断してしまった生地をもとに戻すことはできないため、ファションデザイナーを含めたアパレル企業側と縫製工場側でしっかりと打ち合わせを重ねて作業に入っていきます。
縫製は次の7つの工程で進んでいきます。

1.検反

検反では生地の織り方、色ムラ、キズのチェックを行います。出荷前にメーカーでも検査をしているのですが、工場には大量に生地が届くためどうしても輸送中に不具合が生じることもあることから縫製工場でも入念にチェックをするのです。
また、接着プレス機を使った収縮試験や生地と芯地の接着適合試験などもここで行います。
 
2.延反
ロール状にきつく巻かれた状態の生地に蒸気をあてたり振動を加えながら台に広げる作業です。縫製工場に入ってくる生地はそのほとんどがきつくグルグル巻きにされた状態になっているので、これをほぐす作業が欠かせないのです。
生地は生産に必要な分だけ重ねながら広げられることになります。
 
3.型入れ
延反された生地に裁断の目印となる線を入れる作業です。
ほとんどの工場でコンピューターが行い、この型入れと次の裁断を同時に行うこともあります。
 
4.裁断
目印に従ってパーツごとに生地を裁断する作業です。
刃のついた機械を人間が操作して延反によって重ねた生地を切り抜くこともありますが、近年はレーザーなどが用いられることもあります。
 
5.縫製

切り抜かれたパーツをミシンで縫い合わせる工程です。襟やポケットなどのパーツもここで縫いつけます。
この縫製は人間の手で行われるため、繁忙期になると50人以上の縫製工がミシンをフル稼働させることもあります。
 
6.仕上げ
アイロンやプレス機でシワを取り除きます。
 
7.検査包装
出荷直前の最終段階です。寸法に間違いはないか、汚れや破損のチェックなどを行い、出荷するすべての商品を検針機に通して針が残っていないことを確認します。
検査が終了した洋服はラベルがつけられて、袋、ハンガー、箱などで包装され出荷されます。

 

縫製工になるには?


縫製工の職に就くために必要は資格はありません。
仕事は多岐にわたるため最初からすべての技術がなくても就業は可能ですが、全行程の技術を身に着けるためには3年~5年程度かかるとも言われていますので、仕事をしながら腕を磨くという感覚でお仕事をすることになるでしょう。
ミシンを担当できるのは数年間の実務経験を積んだ後になるのが一般的です。

 

縫製工場と良きパートナーとなるために


縫製工場はファッションデザイナーの夢でもある自分の洋服を世に出すということを形にしてくれる大切なパートナーになるため、工場との良好なネットワークはとても重要です。

すでに取引のある工場があればスムーズに依頼することができますが、初めてお願いをする場合にはデザイナーも縫製工場側も苦労することが多いと聞きます。

少し話がそれますが、縫製工場に初めて生産を依頼するケースとして近年増えているのが、ネットショップで小規模販売する洋服を作ってくれる小ロット対応の工場を探しているというもの。
自宅のロックミシンや工業用ミシンで制作してネットショップで販売していた洋服が人気となり、ハンドメイトの枠を超えてブランド化する事例です。
自分のブランドを立ち上げることができるのはとても素晴らしいことですが、こういった依頼は縫製工場に歓迎されないこともあります。

なぜなら、このケースでは依頼主に洋裁の知識はあっても縫製工場とビジネスの話ができるくらいの知識がないことが多いから。
工場としては持ち込まれた案件に真剣に取り組みたくても、依頼主側に知識がないために「アイディアはありませんか?」「どうすればいいか提案して欲しい」と聞いてくる人もいるのだそうです。
経験がないことや知識がないことは決して恥ずべきことではありませんが、その部分の補填を全て工場に負担させるのはビジネスとして違います。

さらに依頼主の希望はあくまでも小ロットで、次に発注してくれるかどうかもわからないとなると、縫製工場も相手を信頼して全力で仕事を受けることはできませんよね。

日本の縫製技術は素晴らしいものがあります。
みなさんも海外製の服を買ったときに縫い方が雑だと感じたことや、裾がすぐほつれてしまった経験があるのではないでしょうか。
しかし、国内のブランドも縫製を海外に発注することが非常に多く、国内の縫製工場は決して潤っている状況とは言えません。

これからファッションデザイナーを目指す人は、ぜひ服飾に関わるみんながより良い条件でお仕事ができるように働く環境を考えて業界を牽引して下さいね。