家族や友人の影響でデザイナーを志す
上田広大氏 参照:https://qui.tokyo/feature/vast222-interview-190708
上田広大氏は、1990年大阪府の生まれです。京都造形芸術大学の空間演出デザイン学科ファッションデザインコース卒業後、アパレルメーカーを経て2016年に自らのブランドである「vast222(バースト222)」を設立しています。子供の頃から、何かを作ることが好きだった上田氏は、家庭や学校など周囲の影響もあり、自らのなかで「何かを作る」ことを「洋服をつくる」ことへと変化させていきました。今回は複合的なジャンルを取り込み、独自のルックに昇華させるデザイナー、上田広大氏をご紹介します。
「何かを作る」ことが一番の遊びだった
上田氏は小学校から中学校まで、私立学校で、片道1時間ほどかけて電車通学をしていたそうです。そのため、近所の友人とは遊ぶ機会が少なく、一人で遊ぶことが多かったといいます。その遊びというのが「何かを作ること」。ダンボールで自分なりにおもちゃを作ったり、絵を書いたりすることを遊びとして行っていたのです。
ただ上田氏が「いま思えば、もの自体というよりも、その仕組み、なんでそうなってるのか、どういうふうにできてるのかというところへの興味が強かった」と語るように、何かを完成させるというよりも、作る過程に興味があったようです。そして、その考え方は中学校の頃から始めたという古着のリメイク、さらには後のブランド設立にも影響を及ぼしていくのです。
周囲の影響で目指したファッションデザイナーという仕事
参照:https://vast222.com/portfolio/2022aw-collection-make-believe/#gallery-sc1-1
上田氏の父親はスニーカー専門のウェブサイトを運営するなど、ファッションに精通している方でした。また、祖母も洋裁、刺繍を教えているなど、上田氏の周囲には、ファッションに関する情報が多くありました。そのような身近な環境の影響もあり、中学生の頃には「ファションの仕事ってええなあ」と思っていたそうです。
その思いをさらに高めることになったのが、「私服がOKの高校に行きたかった」として入学した公立高校でした。高校ではファッション好きの友人が多くできて、現在のビジネスパートナーである友人とも、高校時代に知り合っています。
多くの刺激を受けた高校生時代によって、上田氏は、デザイナーとしての将来に照準を定めます。そして、進学を決めたのが京都造形芸術大学の空間演出デザイン学科ファッションデザインコースでした。
人が着ることで完成する服を目指す
上田氏が大学で主に学んだことは、「コンセプトの立て方とか考え方、頭の使い方が中心」でした。ほぼ、技術的な授業はなかったといいますが、服づくりはほぼ独学でマスターできました。理論的なことを学べた大学の授業は、非常に有意義で、ブランドのコンセプトをつくる場合にも考え方の参考になっていたようです。
多くのカルチャーに影響を受けたユニセックスブランド
参照:https://vast222.com/portfolio/2022aw-collection-make-believe/#gallery-sc1-7
大学卒業後、上田氏は大阪のアパレル会社に就職します。ただ、就職には服づくりへの情熱が冷めてしまうのでは、という怖さがあったようです。「就職すると作ることを辞めてしまう人って圧倒的に多いんですよ。仕事行って疲れて帰って寝て、服作りの時間がとれなくなり、それが怖いなって。だから自分を追いつめるため、大学卒業前に後輩とかを誘って半年後のグループ展を企画しておいたんです」というように、自分を鼓舞させるようにイベントへの参加を継続。それが注目をあつめるようになり、「vast222(バースト222)」を立ち上げて、会社も退職することにしました。
上田氏がデザインする服は、多くのカルチャーに影響を受けたユニセックスなルックが特徴。カルチャー全般に影響を受けていると語りますが、特に映画と音楽が中心だと言います。映画では「フットルース」や「メメント」など、音楽ではザ・フーやオアシスなどで、「その作品の内容というよりは、言葉そのものからイメージしてコレクションを作っています」と語っています。大学で学んだコンセプト立案の手法などを通し、さまざまなカルチャーから得たインスピレーションを自らのデザインとしてアウトプットする。それこそが上田氏が多くの個性的なデザインを生み出す秘密なのかもしれません。
コンセプトは「外部記憶媒体としての衣服」
参照:https://vast222.com/portfolio/2022aw-collection-make-believe/#gallery-sc1-23
そして、「vast222(バースト222)」の個性的なデザインの根底にある、コンセプトは、「外部記憶媒体としての衣服」。着ることによって起こる経年変化や、着る人の思いによって初めてその洋服が完成する、というものです。
「服って着る人の生活やストーリーが付加しやすい道具やと思っています。ある種、器のようなものを作っているという感覚があって。魯山人じゃないですけど、器も料理を盛って完成するようなところがある。だからvast222では着るシーンを選ぶような服は作らず、日常的に着られる服を作っていきたいんです」と語る上田氏。「着る人」を第一に考えた服づくりを実践し、継続しているデザイナーと言えるでしょう。