誰もが知る世界的ブランドグッチ(GUCCI)の創業者一族に巻き起こった事件を映画化した「ハウス・オブ・グッチ」が2022年に1月に日本で公開されたことを覚えている方もいらっしゃるかと思います。
監督がリドリー・スコットで、レディー・ガガやアダム・ドライバーが主演を務めたことも大きな話題になりましたね。
実はこの映画、サラ・G・フォーデンによる書籍「ハウス・オブ・グッチ」を映画化したノンフィクション作品なんです。
今回のDOW?服と仲良くなる方法では、この実際におこったグッチ暗殺事件の真相についてご紹介しています。
映画「ハウス・オブ・グッチ」をこれから見るという方はネタバレになりますのでご注意下さいね。
主な人物紹介
マウリツィオ・グッチ:暗殺されたグッチ3代目社長。
アルド・グッチ:グッチ2代目社長。グッチを世界的ブランドに育てた立役者。パオロの父。
パオロ・グッチ:方向性の違いから父アルドと決別。のちにマウリツィオと結託してアルドを社長から解任させる。
ロドルフォ・グッチ:マウリツィオの父。アルドの右腕としてグッチを支えてきた。
パトリツィア・レッジャーニ:マウリツィオの元妻。ロドルフォには結婚を強く反対されていた。
カルロ・ノッチェリーノ:特別捜査班のナンバーツー。事件の一報を受けて現場に直行した捜査官です。2年にわたって事件を捜査します。
事件の概要
1995年3月27日。ノッチェリーノ捜査官が現場に駆け付けると、玄関にすでに息を引き取っているマウリツィオが倒れていました。4発の弾が放たれた跡があり3発が命中していました。致命傷となったのはこめかみに当たった1発です。
非常に残虐な手口であったこと、またマウリツィオは世界的に有名な実業家でもあったことから、プロの犯行も疑われる非常に複雑な事件でした。
あのグッチが絡んでいる事件ということで世間的にも大きな話題となったことは言うまでもありません。
手がかりを調べるノッチェリーノ
ノッチェリーノはマウリツィオのオフィスで資料を押収して手がかりを探します。
カジノが関連しているのか?
捜査のなかでマウリツィオのスイスにある別荘から日本円にして約20億円という使途不明金が見つかっていて、さらにマウリツィオがスイスでカジノ経営をはじめようとしていたこともわかりました。
そのため、当初は事件の背後に国際的な犯罪組織が関与していることも疑われ、当時の新聞では、「グッチはマフィアの報復にあった」と報道されました。
ノッチェリーノ捜査官は、自らスイスに行き捜査を行いましたが、マウリツィオのカジノ経営はまだ取り掛かったばかりのプロジェクトであり、事件とは無関係であることがわかりました。
不透明な20億円の真相まではつかめませんでしたが、事件とは関りがないという結論になります。
手がかりをひとつなくしてしまうことになりますが、国際犯罪の線をつぶすという進展もありました。
並行で操作を行っていた家族間トラブル
ノッチェリーノ捜査官は、スイスの捜査と同時にフィレンツェでマウリツィオの家族の間でトラブルがなかったかも捜査していました。
フィレンツェがあるトスカーナ地方はイタリアの革製品の生産地として非常に名高く、グッチブランドが100年以上も前(1921年)にフィレンツェで創業していたためです。
グッチは家族ブランドとして栄えてきて、激しい後継者争いがあったことも知られていましたので、家族の誰かが犯人である可能性も初期段階から浮上していたのです。
グッチ家の争い
グッチ家の後継者争いを知るには、グッチの歴史を知る必要があります。
グッチの創業者はグッチォ・グッチという人物ですが、世界的なブランドに育て上げたのは2代目社長のアルド・グッチです。
アルドは40代という若さでイタリアからアメリカに進出して、1953年にニューヨーク5番街にグッチの店舗をオープンさせるなど世界に店舗展開を行い、グッチブランドに大きく貢献して莫大な収益を上げます。
オードリー・ヘップバーンなどの女優やセレブ、モナコ公妃のグレース・ケリーなどもアルドが出店したグッチの店舗を訪れています。
この頃にグッチを支えていた革職人のエピソードによると、職人が自分の母親のために作ったバッグをアルドに見せると、「すぐに300個作って欲しい」というオーダーが入ったそうです。突然300個作るのは大変なことだったのですが、大急ぎで50個作って送ったところ、送ったとたんに売り切れたそうです。
この頃がまさにグッチの栄光の頂点だったのかもしれません。
息子パオロの方向転換とロドルフォの死去
あくまでも高級路線を貫いてきた2代目社長のアルドに対して、アルドの次男であるパオロはもっと若い世代に向けた安価なブランド展開を独断で始めようとしました。
この路線の違いが火種となり親子は激しく対立して、一族全体を巻き込むいわゆるお家騒動に発展してしまいます。
パオロの娘パトリツィアはこの親子の諍いをいつも目の当たりにしていたそうです。アルドは孫のパトリツィアにも怒りをぶつけていて、家族間の内紛はさらに深くなり拡大していきます。
同じころ、アルドの右腕的存在だった弟のロドルフォ・グッチが1983年に亡くなります。これにより、ロドルフォが持っていたグッチの株が一人息子のマウリツィオに相続されることになりました。その数はなんとグッチ全体の持ち株の50%!
アルドの持ち株は40%、アルドの3人の息子が3.3%ずつ、そしてマウリツィオが50%という取得率になったことがさらに一族の関係に波紋を広げていきます。
マウリツィオとパオロの結託
マウリツィオはパオロと結託して、持ち株を半数以上に増やすことに成功します。
父ロドルフォの死の翌年の1984年、役員会を開いてアルドを社長の座から引きずり下ろすという下克上を成し遂げ、マウリツィオ自らが3代目社長に就任します。
非常に狡猾に世代交代を成功させたのです。
社長となったマウリツィオは結託したはずのパウロをすぐに見限って経営権を掌握します。マウリツィオはこうしてたったひとりでグッチ帝国を牛耳ることに成功したのです。
家族の怨恨の線は濃厚なのか?
マウリツィオは一族の誰からも恨みをかっていてもおかしくない存在だったことから、警察も家族の犯行という路線は最初から考えていました。
しかし、マウリツィオが3代目社長となったのは1984年で、殺害されたのは1995年であり家族間抗争は11年も前であることから、怨恨説に対して警察は慎重に捜査をしていました。
出展:COSMOPOLITAN
左 マウリツィオ・グッチ/右 パトリツィア・レッジャーニ
マウリツィオの元妻パトリツィア・レッジャーニ
ノッチェリーノ捜査官の指揮の元、様々な可能性を捜査しては打ち消していく中で、浮かび上がった人物がマウリツィオの元妻であるパトリツィア・レッジャーニです。
マウリツィオとパトリツィアは事件の半年前に離婚していて、マウリツィオには新しい恋人がいました。
警察は、この恋人であるパオラ・フランキーから「パトリツィアは元夫が亡くなることを望んでいた」との証言を得ていて、別の人物からは殺し屋を探していたという証言もつかんでいました。また、パトリツィアは自身の弁護士に「もし私が夫を殺すために誰かを雇ったら私はどうなるのでしょう?」と聞いたこともあったそうです。
これらの真相を確かめるために、ノッチェリーノ捜査官はパトリツィアを警察署に呼び尋問することにしました。
隙を見せないパトリツィアに警察がとった手段
パトリツィアは非常に落ち着いていて、警察が「あなたがマウリツィオを脅迫したのは本当ですか?」と聞くと、「私たちの間に良好な関係がほとんどなかったことは本当です。でも脅すなんてことはしていません。誰が何の目的で彼を暗殺したのか私にはさっぱりわかりません」と答えます。
何を聞いても一切隙を見せない彼女に対して、警察は日本では考えられない方法に出ます。
パトリツィアを徹底的に調べ上げるために、彼女が住んでいる家に盗聴器を仕掛けたのです。盗聴器はイタリアでは捜査手法として認められているのですが、なかなかの方法ですよね!
何か手掛かりになることはないかと半年にわたって傍受を続けた結果、ノッチェリーノ捜査官はある人物との会話に注目します。
その人物はピーナ・アウリエンマという女性です。
ピーナという人物は、セレブとは縁のないいたって普通の庶民で、パトリツィアの周囲にいるセレブとは異質な存在でした。
マウリツィオ殺害に関して直接話すことはありませんでしたが、非常に気になる会話があったことから引っかかりを覚えます。
なぜ、ピーナとパトリツィアは何度も電話をしていたのか・・・。
その矢先、警察からノッチェリーノ捜査官にかかってきた1本の電話から操作が大きく動くことになります。
この電話は「グッチ殺害事件の経緯を全て知っている」という人物からのいわゆるタレコミだったのです。
本当に犯人に繋がる情報だったのでしょうか?
(次回に続きます)