映画好きが語る銀幕のファッション オードリーとジバンシィ編

憧れのファッションは、映画がお手本

 

ファッションは、「映画の世界」を彩るのに欠かせない、大切なエッセンス。

ステキな映画には、華々しい衣装がつきものなのです。

「映画を見ていたら、美しい女優さんの装いにときめいた!」

「有名デザイナーさんが、この映画の衣装をデザインしていることをあとで知った!!」

映画はリアリティある(=現実っぽい)ストーリーを描くものですが、その一方で、絢爛豪華な夢の世界を、観るだけで目の前にあらわしてくれるものでもあります。

美しい衣装をまとった俳優さんがいきいきと物語の主役を演じる姿には、思わず目を奪われてしまうものです。

この記事では、映画好きの筆者が「映画のなかのファッション」を語りたいと思います。

そして、その衣装をデザインしたファッションデザイン界の巨匠のことも、少しだけご紹介していきたいと思います。

今回は、「オードリーとジバンシィ編」ということで、日本でもいまもなお人気のオードリー・ヘップバーンと彼女が着たドレス、デザイナーのジバンシィについて語っていきます。

 

「ティファニーで朝食を」優雅な姿で“特別な女性”を演じるオードリー

 

ドラマティックで、華やかで、ロマンティック!

「ティファニーで朝食を」は、そんな言葉がぴったりの映画です。

けだるい曲調の「ムーン・リバー」が彩るこの作品は、むかしから多くの女性・男性の憧れの名作映画でした。

有名過ぎて、もうストーリーは語るまでもないとは思いますが、一応ご説明しましょう。

ニューヨークのアパルトマンに住む、自由で美しい女性・ホリー(演:オードリー・ヘップバーン)は、何にもとらわれず、働くことも無く、さまざまな男性と交際を楽しみ、男性たちから金銭的な援助も与えられながら、優雅に暮らしています。

そのホリーの暮らすアパルトマンに、新しい住人であるポール(演:ジョージ・ペパード)という作家の男性が引っ越してくる…という筋書きで、物語は進みます。

ホリーを演じているオードリーは、美しくって可憐で、もう妖精そのもののよう!

「オードリーくらいの可愛らしい美女だったら、こんな特権階級みたいな優雅な自由奔放な女性だとしても、そりゃー周りの人たちは許しちゃうよねえ~」

と思えてしまうほど!

冒頭のシーンでホリーは、ニューヨーク5番街のショーケースの前にあらわれ、テイクアウトしたコーヒーとデニッシュの朝食をとりながら、きらびやかなティファニーのジュエリーを眺めています。

 

このときにオードリー・ヘップバーンが着ているのは、タイトなシルエットの美しい黒のドレス。上品で華やかで、とても高貴な雰囲気を醸しています。

しかし、そんな高貴な雰囲気のドレスをバッチリ着ているのに、早朝にティファニーのショーケースの前で立ったままコーヒーとデニッシュを口にしてしまうというのが、オードリー演じる「ホリー」の型破りな奔放さと、特別なチャーミングさを表しているのです。

 

憧れの「リトル・ブラック・ドレス」の“決定版”

このドレス、本当に素晴らしいのは、なにしろオードリーの容姿にピッタリ似合っている、ということ。 

オードリーのスッキリとスリムな体型、上品さ、知的さ、可憐な美しさを、とにかくこのドレスがばっちり引き立てていて最高に魅力的!! と、称賛したいくらいなのです。

身もふたもない言い方をすれば「こんな食べ方なんて品がない」と言われても仕方の無いような“立ち食いスタイル”の朝食シーンなのに…!

「ニューヨークのティファニー前でデニッシュをかじるって、この上なくお洒落で素敵だよね~!!」と思えるほどの映画史に残る名シーンになっているのは、

「すべてこの美しいドレスのおかげ!」

ではないでしょうか!?

このドレスは、「ティファニーで朝食を」の映画製作のため、そして他でもないオードリーがまとうためだけに、フランス人ファッションデザイナーのユベール・ド・ジバンシィが1961年に手掛けたものです。

現在も「ジバンシィ」というと、洋服やバッグなどのアパレル品をはじめとして、化粧品や香水など、上品でステキなものをいっぱい売り出しているハイブランド…というイメージですよね。

 

ところで、あなたは「リトル・ブラック・ドレス」という言葉を知っていますか?

リトル・ブラック・ドレスとは、「トレンチコート」「カクテルドレス」のような、欧米では一般的なファッションアイテム名の一種です。

シンプルで、大げさな装飾がない黒一色のワンピース/ドレスの総称を、リトル・ブラック・ドレスといいます。

パーティや冠婚葬祭に着回しがきくので便利なうえに、アクセサリーや合わせる小物しだいで華やかにも地味にもアレンジできるリトル・ブラック・ドレスは、現代の欧米女性の手持ち服のラインナップのなかにかならず1枚は必要、とも言われています。

「ティファニーで朝食を」の映画製作のためジバンシィがデザインし、オードリー・ヘップバーンが着用した黒のドレスも、ドレスの種類としては「リトル・ブラック・ドレス」なのだということです。

 

リトル・ブラック・ドレスの歴史としては、このような感じです。

「ティファニーで朝食を」が製作された1960年代からさかのぼること40年、時代は1920年代。いまや伝説的な存在の、ファッションデザイナーのココ・シャネルが活躍していた時代です。

「リトル・ブラック・ドレス」という現代でも根強い人気があるファッションアイテムの原型を作ったのは、ココ・シャネルでした。

当時は「喪服」のイメージが強かったシンプルな真っ黒のワンピースを、ココ・シャネルがオシャレな最先端のファッションアイテムとして流行の真ん中に引っ張り出し、パールネックレスを何重にも重ね付けしたスタイルを提案しました。

粋で媚びない美しさがあり、上品で、洗練されているこのコーディネートは、瞬く間に世の人からの支持を得たのです。これがファッション史のうえで、「リトル・ブラック・ドレス」の誕生した瞬間だと言われています。

【参考: フリー百科事典ウィキペディア(Wikipedia)】

リトル・ブラック・ドレスhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%88%E3%83%AB%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%89%E3%83%AC%E3%82%B9

 

さてこの「リトル・ブラック・ドレス」のスタイルは、その後多くの後進デザイナーたちのファッションデザインにも大きく影響を与えました。

そのなかのひとりが、シャネルの活躍した時代(1920年代ごろ)から30~40年ほど後に、デザイナーとして活動し始めたジバンシィでした。

「ティファニーで朝食を」の主演女優であるオードリー・ヘップバーンのためにジバンシィがデザインした美しい黒いドレスは、映画公開から何十年も経ったいま、

「20世紀のファッション史を代表する“リトル・ブラック・ドレス”である」

「“リトル・ブラック・ドレス”の決定版」

とも称されているそうです。

主演女優にピッタリ似合っていて、華やかなのに上品で、上品なのに粋な感じで、都会的で、自由奔放で型にとらわれなくて…。

映画を象徴する要素が、すべてこのドレスのデザインにあらわれているのです。

名作映画「ティファニーで朝食を」ときいて、まずイメージするのは、このリトル・ブラック・ドレスを着た優雅なオードリーの姿でしょう!

 

ジバンシィは永遠に古びない、永久に美しいドレスを、銀幕のなかで私たちに惜しむことなく披露してくれたのです。

オードリーの着たジバンシィのドレスは、まさに、オンリーワンの名作映画にふさわしい「不朽のデザインの名作ドレス」と言えるでしょう。

ジバンシィとオードリー「あなたのためのデザイン」

 

2006年の12月、ロンドンのオークションハウスに、伝説のドレスが突如、出品されました。

「ティファニーで朝食を」のためにジバンシィが製作した1枚のドレスです。

当時映画のために製作されたドレスは複数枚あったそうで、そのうちの1枚がオークションに出されたのです。

これはチャリティーの資金集めのために、ジバンシィ本人がドレスの出品に協力したそうですが、最終的には、予想よりはるかにスゴイとんでもないお値段で落札される結果になったようです。

 

その額、46万7200ポンド!!!

……日本円にして「約1億円」です!!!

ドレス一枚についた値段としては、庶民にはとんでもなさすぎてもうひたすらに呆然とするしかない額なんですけれども…。

このお金は、インドの貧しい子供たちのための学校を作るのに役立てられたそうです。

きっと晩年にユニセフ親善大使として一生懸命活動していたオードリーも、子供たちのために役立ててもらえてよかった、と喜んでいることでしょうね!

ジバンシィとオードリーは、1954年製作のオードリーの主演映画の「麗しのサブリナ」からのつきあいで、1993年にオードリーが63歳で亡くなるまで、親しい友人でした。

ジバンシィは、なんとオードリーが「私の主演映画のためにドレスのデザインをお願いしたい」と言ってきたとき、オードリー・ヘップバーンという女優さんがいることを知らなかったんだそうです!!(なんと失礼な!(笑))

ライジング・スターだった若き日のオードリーが、ジバンシィのデザインした衣装を着たい、と思い、自らジバンシィに会ってデザインして欲しいと頼み込んで、そしてあの「麗しのサブリナ」や「ティファニーで朝食を」で見せてくれた素晴らしい服が生み出されたかと思うと、筆者は「ジバンシィも凄いんだけど、それよりなんかオードリーって凄いな」と思ってしまいます。

 

つまり、「ジバンシィのデザインした美しい服が、サイコーに自分を素敵に見せてくれる!!」と、オードリー本人がよくよくわかって確信を持っていて、ジバンシィの才能に主演映画のドレスのデザインを託した、ということでしょうから。

いうなれば「女優としての命運がかかった洋服」のデザインを、ほかでもないジバンシィに託したわけです。

オードリーは、自分を素敵に見せる方法をとってもよくわかっていて、ずば抜けて聡明な女性だったのでしょうね。

ジバンシィはオードリーの亡くなった1993年まで、「オードリーのための服」をデザインし続けました。

若き日のオードリーが感じた「ジバンシィのファッションデザインの才能」は、大女優の華々しいキャリアと私生活を亡くなるまで支え続け、美しく華麗に演出し続けたのです。

 

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