1970年代から2010年代までのファッションについて当時のカルチャーを踏まえながら、全5回に分けて解説していきます。今回は2010年代をフィーチャーします。
「カワイイ」文化、世界へ
歌手のきゃりーぱみゅぱみゅさんに代表される、ファンシーでふわふわしたものがブームになったこの時代。もう10年以上も前かと思うとびっくりしますが、2020年代につながる諸相が見え隠れしているので、おさらいしていきましょう。
「カワイイ」文化として世界で愛されているファッションは、前回登場したロリータ服と、「コスプレ」です。順を追って説明していきますね。
ロリータ服が市民権を得たのは2000年代ですが、長く不遇の時代が続きました。パニエで強調されたスカート、過剰だと揶揄されるフリルやリボン、ヘッドドレス……同質性を重視した2010年代初頭では、ロリータ服で街を歩けば誰かしらに勝手に撮影されるほど、異質なものとして見られてきました。それでも前回登場した青木美沙子さんのように、ロリータ服好きを公言する女性が現れ、次第に服飾の世界において確固たる地位を築き始めます。その延長線上にあるのが「コスプレ」ブームです。アニメを視聴することが広く受け入れられるようになった2010年代以降、アニメオタクの人たちの間で「キャラクターになりきる」ことが始まります。そして今や世界的に行われるようになったのが「コスプレ」。アニメの世界が実写になったかのような高い再現度を実現させるコスプレイヤーさんたちは、日々衣装づくり(そう、コスプレをしている人はだいたい自分で衣装を制作しているのです)にいそしんでいます。その派生で「創作コスプレ」というのも誕生し、自分のオリジナルの世界観を表現するためのコスプレをするようになりました。コスプレは今や市民権を得て久しいですが、ここまで進化しているのですね。そしてその創作コスプレの一部に「スチームパンク」という服装の人気があります。これは歯車や19世紀のドレスなどをイメージした、蒸気機関の世界を表現したもの。これで自己表現・自己実現をする若い世代が増えているのがこの2010年代です。
(出典:きゃりーぱみゅぱみゅOFFICIAL)
(出典:ワンピース専門店favorite)
デザイナー最盛期
2019年にカール・ラガーフェルド氏が逝去されましたが、それでもデザイナーの力は未だ衰えず、どんどん新しいものを世界に発信しています。先ほど話題に出た「アニメ」とのコラボレーションも盛んで、丸山敬太氏は自身の衣装をアニメ・ゲーム作品に提供するなどしています。丸山敬太氏の手がける作品も、この2010年になって人気に火がついています。
2010年代ではアニメグッズを持ち歩くのが普通になったことで、「いかにオタクだとバレないか」「いかに周りと差をつけるか」「オタク特有の野暮ったさ、俗っぽさを抜いた、ファッショナブルなグッズはないか」という点に力を入れて、アニメ業界のグッズ制作が進んできたこともあり、一見アニメグッズには見えないけれど実はモチーフの作品があります! みたいな例も出てきています。
そして2010年代は、Twitterで活動を発信し、そのうえでデザインフェスタのような大規模即売会などで自作したお洋服やアクセサリーを販売するという形態で活躍するデザイナーが多くいらっしゃることも欠かせない要素となっています。彼らは自分で作品をプロデュースするために、カメラマンやスタジオ、モデルを手配して作品製作・発表・販売をしています。私の知り合いの服飾デザイナーさんは、半分ほどが専門的に学んだ人、半分ほどが独学で製作している人だというから驚きです。個性的な服装を好む層はどの時代にも一定数いること、そして手仕事に再評価の目が向けられていることなどが追い風となり、様々なファッションブランド(それも、店舗を持たずネット通販や即売会のみの販売を実施しているファッションブランド)が増えているのが実情のようです。
(出典:HIDOLATRAL THEODOL on Twitter.jp)
手仕事の復古
ハンドメイドブームもそうですが、職人技に再び光が当たるようになったのがこの時代の特徴でもあります。その人にしか生み出せないもの、そのブランドでしか発信できないものを常にみんなが待ち望んでいるような状況で、「一点物」「ヴィンテージアイテム」が再評価されるようになったのです。ヒップホップ、アングラスタイルなどの現在人気のある服装も、すべてヴィンテージアイテムでコーディネートするのが流行になっている現代のファッションシーンにおいて、手仕事は非常に重視される要素となっています。古いものが一周まわって新鮮に感じる、そしてオシャレになっているというのがこの時代のファッションの特質と言えるでしょう。ハンドメイドの作品も、実際に作家さんに会ってお話を聞ける機会もあり、製作に懸ける情熱を感じ取れるのですが、どれもハイレベルな作品で、量産品よりも「味がある」のですよね。なんというか、ひとつひとつ表情が違うからこそ、その「一点物」を購入して、それに愛着を持って使い続ける……という感じ。そういうサスティナブルで一回性・個別性を重視するような価値観が普遍性を持ったのがこの時代です。
多様性の中から
ジェンダーフリーなど、性別の縛りにとらわれずに服装を選び、男性でもメイクをするのが徐々に浸透し始めた昨今で、ダイバーシティという概念は大きな意味を持っています。性別、障がいのあるなし、年齢などなど……現実に転がっている多くの制約を、極力受けることなくオシャレを楽しみたい、という人たちが増えてきたのです。実際にジェンダーレスな服装がヒットしたり、女性でもボーイッシュにしたいという人が増えたり、男性でも髪を伸ばすことが変ではなくなったり……どんなジャンルでも、差別のない自由さをみんなが求めているように感じます。特に身体に障がいを持つ人は、着るものが限られてしまうので、個人の要望に合わせてリメイクしてもらえたり、あらかじめ障がいに対応した商品が購入できたりするシステムが構築され始めています。そうした「誰でも受け入れる」という風潮が強まってきたのが転換点のひとつだと私は考えています。
私はこう見る!
誰もが普通で、誰もが普通ではない。そんなことを思ってしまうのがこの時代に生きる人の価値観だったのかもしれません。誰もが「服を選ぶ楽しさ」「着飾る喜び」を知り、それを追求できるように声を上げてきて、実際にその制度も整ってきて、社会の考え方も変わり始めて……という時代が2010年代なのではないかと。そして、その「誰でも服装を自由に、好きなものを選べる」からこそ「自分にしかないオリジナリティ」を出したいと考えて、一点物やヴィンテージアイテムに人気が出るようになったのではないかとも推察できます。そういう「普通」の感覚が徐々に変わり続けているのが、ファッションの世界、モード界の常識なのかもしれません。
どの時代にもそれぞれその当時の制約から逃れるための「自由」を求める声があって、それが実現されてきたのが時代の積み重ねとして今まで存在しています。その渦中で、この先の未来でも、きっと新たなファッションの流行が生まれて、たくさんの「自由」がもたらされるようになるのではないかと勝手に楽観視しているのが私です。ファッションの歴史を見ていても、びっくりするほど男性のファッションについては言及されていなかったり、機能性について考えられるようになったのは1970年代からだったり、いろいろな縛りが昔からずっとありました。それを乗り越えて、新しい景色を見せてくれるようなファッションの新たな風を待っています。
(ライティング:長島諒子)