古着文化は時を超え

若い世代の間でひそかなブームになっている「古着」。一昔前までは価値が見出されていなかったものに、いま再び光が当たっています。サステナビリティを考えるうえで必要なことは、きっとここにある。

古着文化の今昔

戦後の高度経済成長期以降、古着がブームになったのは、1990年代のバブル崩壊後の一度きり。当時も「高いものが買えないから」という理由で若者は古着を選んでいましたが、最近は古着にも1万円以上かけるのがザラ。そしてそういった品がびっくりするほど売れている。なぜなのか? というところからお話はスタートです。

SDGsやサステナビリティを標榜する現代において、有限の資源をどう活用するかは喫緊の課題です。そんな中で若者たちの考え方や価値観に変化があり、彼らが「量産品にこだわらなくなる」という現象が起こりつつあります。というのも、「みんなと同じ」であることに疑問の目を向けるダイバーシティの考え方を強く受けた世代でもある若者は、ハンドメイド作品や古着などを活用して自分らしさを演出するようになっているのです。「オリジナリティ」を追求するために、一周まわって新鮮に感じられる「ヴィンテージアイテム」を愛好するようになった、というわけです。

現在の裏原宿や奥渋谷、下北沢、高円寺のあたりには、新旧入り混じる古着屋さんが所狭しとばかりに軒を連ねており、若者文化の発信地でこれだけ古着屋さんがあるということだけでも、若者のカルチャーの中で「古着」が重要な位置を占めていることがお分かりいただけるかと思います。若者の間では「リーバイスのジーンズ」「1970年代のヴィンテージドレス(ワンピース)」など、それぞれが好きなものを「古いからこそ価値がある」として……つまり古いものには今を生きる自分たちにはない良さがある、として独自の価値観のもとお店で購入するようになっているのです。

実際に古着屋さんを覗いてみると、その質の良さに驚かされます。特に女性向けのお店は、北米やヨーロッパから買い付けた商品がずらり。郊外にコンテナを借りてそこからお店のテイストにあうものを選び抜いて、店頭に出しています。もちろん、日本産の昭和レトロな古着を販売している店もあり、お店そのものに独自の世界観があります。遠い昔に誰かが着たものだとしても、基本的に状態が良いので、量産品を買うよりもオシャレじゃないか、と考えるのもうなずけます。店舗によってはお直しのサービスをやっていたり、デッドストックの古着をリメイクして新たな価値を付加して販売したり、様々な取り組みをしています。なかには古いウェディングドレスを10万円程度でレンタル(あるいは購入)して、挙式までトータルコーディネートしてくれるお店もあり、古着女子の間で話題になっています。古着なので身体との相性は非常にシビアですが、運命の一着が買えてしまうところや、そのヴィンテージ感あふれる世界観での挙式に憧れるという婚活女子の声も多いです。

(出典: @grimoire_wedding on Instagram)

 

この「古着女子」「古着男子」というワードも、Instagramでは投稿件数が100万を超える人気のタグです。雑誌という「コーディネートのお手本」を見なくなった若者たちは、現在はインターネットの海に漂流している「等身大のコーディネート」「自分に似た感性を持っている一般人のオシャレな投稿」を見ながら洋服を選んでいます。そのなかでも古着の人気はすさまじく、今の既製品にはない柄・色合いによって、小物でも一点投入するだけでオシャレの上級者に見える! だとか、古着のドレス(ワンピース)を着るとなんだかスタイルも良く見える! だとか、そういった投稿(口コミ)でどんどん人気に火が付いているのです。古着屋さんがコーディネートを投稿して、このアイテムはオンラインでも購入できますよ、となっている古着も気付いたらSOLD OUT(売り切れ)になっちゃった……など日常茶飯事なのです。古着でコーディネートしたスタイルは、かつての「買えないから安いもので」ということではなく、「古きものにこそ価値があり、それを身にまとうことで自分のアイデンティティを表現する選択肢」になったのです。

(出典: @ber_net on Instagram)

温故知新、古着の世界に浸る

古着は「すでに生産されているものを着る」わけですから、サスティナブルな社会においては必須のアイテムと言っても過言ではありません。日々コストをかけて量産される「みんなと同じもの」よりも愛着が湧くのに環境に優しいという優れものが古着です。そしてそれを愛好する人たちは、その服にどんな歴史があって、どんな経路で今ここにあるのか、というのを重視します。リーバイスのデニムひとつとっても、戦時下で作られたから金属は使われていない(代わりの素材で作られた)だとか、ポケットが片方しかないのはこういう理由で……といった具合に、いわれを知ることによっていっそう服に興味が湧いて、それを「オシャレ」だと感じる同好の士を見つけて、どんどん古着の輪が広がっていくものなのです。20~30代でも古着界隈では最年少と言われるくらいなので、上の世代は教えたいこと、語りたいことがたくさんあり、それを聞いて「いいね!」と思った最年少たちが買い求める、という現象が起きています。古着の世界を知った以上は、その古着の「物語性」に魅力を感じてしまうものなのかもしれません。手にしたその品にどんな歴史があるのか、どんな物語が秘められているのか、想像するだけでワクワクしますよね。古着の良さは温故知新、つまり昔の良さを学びながら現代のテイストにミックスするのが正解、ということなのです。

古着の魅力はやっぱり……

そういった市場の需要を受けて、古着はいまや「高いもの」になりつつあります。お金を出してでも買いたいもの、現代を生きる他のブランドのアイテムとミックスして使うもの。そんな考え方が主流ですが、古着の良さは? なぜ買うの? という質問にはやはり「それが運命の一着だったから」というほかないのです。その一着がここに来るまでに、戦火をくぐり抜けたり、廃棄から逃れたり、残したいと思った人がいるからこそ、今までこうして残ってくれている。その「もったいないから捨てずにとっておこう」だとか「将来もきっと誰かが着てくれるだろうから大事にしよう」という発想が、これからの社会においても非常に重要な示唆を含んでいると考えます。今着ているものも、いつかは時代遅れになって、誰も見向きもしなくなるかもしれない。けれど、自分の愛情を注いで長く着てきたものは、その風合いが誰かの心に響くかもしれない。そういう気持ちで古着として残していくことも大事なことです。もちろん企業のデッドストックが市場に出回るのですが、個人が持っていたものも希少価値が高まることがあります。だからこそ、「捨てるのはもったいない」。セカンドハンドの重要性はそこにあります。流行に左右されない服をデザインすることも大事、何が流行になるかはわからないからいい状態でしかるべき場所にとっておくことも大事。その「古着と今生産されている服」の境界があいまいになる感覚が、現代の若者にヒットしている理由なのかもしれません。

たかが古着、されど古着。古着も有限の資源ですが、今ある服も取っておけばどこかで誰かの「運命の一着」になるのかもしれない。ちょっとロマンがある話ですよね。そんなロマンを、夢を感じながら、古着女子・古着男子たちは今日も愛するお店に通うのです。

大事なことは、ほんのちょっとの「もったいない精神」だったりして……?