ソトコト×エストネーション ~THAT’S FASHION WEEKEND イベントレポート vol.3~

4月5日から4月18日にかけて、銀座(エストネーションセントラル)にて行われた服飾販売・展示会「THAT’S FASHION WEEKEND SPRING EXHIBITION 2022」。そのイベントレポートと、そもそも何でサスティナブルなファッションなの? という根本的な問いから、様々な企業のお話まで、全3回に分けてお伝えしています。

この対談企画では、社会や環境にいいことを特集するSDGsマガジン「ソトコト」の副編集長・井上さんと、ファッションブランド「エストネーション」のウィメンズ部門でディレクターを務める藤井さんのお話を伺いました。そのやり取りのなかで、企業の事情を深掘りしていくお話が展開されました。

(左が井上さん、右が藤井さん)

若者の温度感と同じ

この前にあった対談企画が、前回の「Z世代のサステナビリティ」だったので、開始早々その話題で盛り上がりました。若い世代のサステナビリティに対する考え方と、アパレル企業のSDGsに対する意識は似たものがあり、温度感が共有できているとおっしゃっていました。若い世代の人たちと同じくらいにサステナビリティやリメイク、リサイクルについて考えているのが企業側なんですよ、と話していた藤井さんのお言葉が印象に残っています。

実際に今回会場になった「エストネーションセントラル」はエストネーションの他店舗と違い、SDGsに関することを先駆的に実践するラボのような働きをしていて、実際に従業員が自らの問題意識に基づいて「こんなことをしたほうがいいのでは?」と積極的に活動されているとのこと。その取り組みのひとつが「プラスチックをリユース・リサイクルする」ということ。納品時に服を保護するためにかかっているプラスチックの袋を、なんとかリユース・リサイクルしていくという取り組みをしている、と話されていたことをきっかけに、オランダでは素材のリサイクルが進んでいるというお話、そして「職人技」に関するお話に発展していきました。

(出典: ESTNATION ONLINE SHOP)

長く着られるものを作る

職人技の再評価に関しては、最近の潮流としてどの業界でもみられる傾向ですが、服飾の世界では「同じものを作り続けてスキルが上がる」ことは嬉しい、とのことでした。定番商品を一つ作って、例えばそれが良い素材と良い職人の腕で作られて、10万円で販売したとして、どんなに高くてもそれを買った人は「長く着られる」「セカンドハンドとして譲っても譲られた側も嬉しくなる」「何よりそれを買うことで気分が上がる」という効果があり、適正な価格で商品を購入すること、そしてその商品を長く愛用することの重要性を再確認しました。私もちょっと高めのブティックで購入したもので、5年くらい同じスカートを穿いていますが、少しも劣化しないのですよね。そういう「本当に良いもの」にお金をかけることって大事だなあと思いました。何よりお店のスタッフも我々消費者も「ワクワクする」。楽しいことにお金と労力をかけている感じがして、大変心理的にも明るくなるのです。

(出典:ESTNATION ONLINE SHOP)

適時適品適量

4月に法改正があり、プラスチック削減を政府が大々的に打ち出しています。その中で服飾業界は、洋服にプラスチックのカバーをかけ、ハンガーもプラスチック、不織布のショッパーに入れて……とプラスチックから逃れられないですよね、と井上さん。それは海に流れれば魚などが食べてしまうし、洗剤などに含まれるマイクロプラスチックが海洋に流れ出す問題もあります。だからこそ前述したとおり、エストネーションセントラルではリユース・リサイクルが進んでいるのですが、サーキュラーエコノミー(※従来のリデュース・リユース・リサイクルに加え、資源投入量や消費量を抑えつつ、ストックも有効活用しながらサービス化等を行なって付加価値を生み出す経済活動のこと)は大企業じゃないとできないことも多いですよね、と話されていました。それは間に別の企業が挟まっていると、そのぶん身動きが取れないから。だからこそH&Mのような大企業のほうがサスティナブルなお洋服を作っている、ということになるとも考えられます。それに関してエストネーションでは、伊藤忠商事と提携して、服をリサイクルする際に「生地にまで戻せないか」ということを研究・開発しているそうです。すごい。プラットフォーム作りをしたい、と冷静におっしゃる藤井さんも、エストネーションセントラルもすごい。その際に大事なのが、「適時適品適量」の原則。売れない時にたくさん作っても意味がないので、需要を見極めながら適切な品をしかるべきタイミングで多すぎず少なすぎず提供する、ということが大事になるのです。実際にエストネーションセントラルで働いていらっしゃるスタッフさんは、「いろいろな価値観を持った人がリアルな感覚で(SDGsに対して)動いている」(藤井さん談)とのことで、非常に頼もしく感じました。

(出典: ESTNATION ONLINE SHOP)

誰も取り残さない社会に

安直にプラスチック削減、とは言うものの、それをすることによってプラスチック生産に関わっていた人たちはどうなるのか。プラスチックを悪者にして、それを作っていた人たちが取り残されていく状況になるのではないか、という問題提起が井上さんからあり、そこから「誰も取り残さないSDGsにしたい」という方向に話が進みました。本来SDGsとは「ちょっとずつ、毎日、少しずつできることを、みんなで行動に移していく」ことによって達成されるもの。誰かの犠牲の上に成り立っているものではありません。じゃあファッションブランドは何をするのか、という井上さんの質問に、藤井さんは「みんなの価値観を変えたい」とおっしゃっていました。みんなの価値観を変えて、みんながハッピーになるお洋服を作っていくことが、ファッションブランドとしてできるSDGsなのだということで、その心意気に感動しました。やはり我々消費者も、意識を変えなくてはいけませんね。そうやって服作りを通じて社会に新たな風を吹かせようとしているアパレル企業にお金を投資しなくては、と思わされました。

 

(こちらがソトコトの紙面。熱量が窺えます。)

コロナ禍で変わったこと

このご時世ですから、消費者もいろいろと価値観が変化しましたが、企業もまた取捨選択を迫られた、とお話されていた藤井さん。それに合わせて井上さんがお話していたのが #mendinmine というハッシュタグについて。なんでも、アメリカに渡って海洋の研究をしていた女子大生が、アメカジファッションに染まりつつあったとき、「私はなぜ海のことを学んでいるのに海によくないことをしているんだろう」と我に返って、自分の服を自分で繕い始めたことがこのハッシュタグのきっかけだったそうです。そしてこのハッシュタグは感度の高いZ世代の間でバズり、今やInstagramの世界で大規模な流れを巻き起こしているのだそうです。「リペアしながら使う、ということを、若い世代が発信しているんですよね」とおっしゃる井上さんは、「ファッションは自分が自分らしくあるためのもの」と続けました。若い世代が古着に新鮮な価値を見出したように、企業もまた新鮮な価値を提供する局面にきているのではないか、といったところでお話はおしまいになりました。

(ソトコトのSDGs特集記事掲載号です。)

どんなことも、「やり取りと信用の積み重ね」。そうおっしゃっていた藤井さんのお言葉が胸に刺さりました。企業は商品を提供する、でも買ってもらえるかどうかはお客さん(我々消費者)とやり取りして、信用を勝ち取るからこそ。そう思うと自分の行動に責任が生まれてくる感じがして、簡単に「安ければいい」だとか思えなくなりました。そういう価値観の変化の潮目に来ているのが現代。皆さんもぜひ、未来と社会のための投資をしてみてくださいね。

お話を伺った井上さんと藤井さんに、この場を借りて感謝申し上げます。

(レポート:長島諒子)