今、注目される日本のデザイナー達Ⅶ~廣川 玉枝(ひろかわ たまえ)~

東京オリンピックのポディウムジャケットでも注目される、閃きのデザイナー


廣川玉枝氏 参照:https://qui.tokyo/feature/somarta-sanua-interview

新型コロナ感染症のため、Ⅰ年間延期をして開催された東京オリンピック。無観客など特殊な状況でしたが、世界中が注目し、そして大きな感動をもたらした大会となりました。特にファッションの観点から注目されたのが、日本人選手が表彰式などに着用していた「ポディウムジャケット」。「ポディウム」とは、表彰台という意味で、朝日をイメージした鮮やかなサンライズレッドのウェアは大きな話題になりました。デザインを担当したのは、今回ご紹介するデザイナー廣川玉枝氏。デザイン性だけではなく、「第二の皮膚」を意識し、機能性にこだわる廣川氏の人物像に迫ります。

「人物画が描きたい」と選んだファッションの道

廣川氏は、ファッションデザイナーと言うよりも、「人物画を描きたい」という思いが強かったようです。ただ、「絵を描く職業につきたいけれど、現実的に難しそう」という漠然とした思いを語っています。
高校時代には美術部に所属、ファッション雑誌の切り抜きをモチーフにして人物画を描いていて、その美しさに魅了されていきます。「女性たちが服装やメイクで変幻自在に美しく変化することに興味を抱き、自分が思い描いた服を装うことで人々が美しく変化することは、まるで着るアート作品のようだと感じました。それから美にかかわる仕事をしたいと考えるようになりました」。そう語るように、「人物画を描く」という思いと、「ファッションデザイナー」という職業が重ね合わさり、廣川氏は多くの有名デザイナーを排出している、文化服装学院へと進学を決めます。

「第二の皮膚」を実現した閃き


参照:https://www.parasapo.tokyo/topics/27382

文化服装学園で3年間学んだ廣川氏は、イッセイ・ミヤケに就職をします。その理由を廣川氏は以下のように語っています。「素材から服を作ることに興味があったんです。糸にふれているときが楽しい。そして、素材から作る、服の形自体を新しく作るということを将来的にもやりたかったのです」。
その言葉の通り、イッセイ・ミヤケでニットを中心に実績を積んだ廣川氏は2006年に独立し「SOMA DESIGN」を設立、ブランドとして「SOMARTA(ソマルタ)」を立ち上げて、「第二の皮膚」をテーマとした新しい服づくりを始めていきます。
「第二の皮膚」という構想は、学生時代からイメージしていたものでしたが、具体的なアイデアは無縫製ニットの技術に出会って閃いたと言います。
廣川氏が手掛ける、無縫製ニットとコンピュータのプログラミングで製造される「SOMARTA(ソマルタ)」の「skin」シリーズは、人体にフィットした、まさに「第二の皮膚」とも言えるもの。レディー・ガガなどの著名人も愛用しており、その技術は前述の「ポディウムジャケット」にも活かされています。

さまざまな表現でマルチに活躍するデザイナー

廣川氏は、学生時代からさまざまな分野に興味を持ち、吸収しています。舞台や展示会などにも多く足を運び、アンテナを広げていたそうです。その多彩な知見は、「第二の皮膚」とも言える先進的なニットテクノロジーを開発し、また、現在では異業種へも伝播しています。

無縫製ニットのテクノロジーを追求


「skin」シリーズ 参照:https://www.fashion-press.net/news/14527

廣川氏が手掛けるブランド「SOMARTA(ソマルタ)」の「skin」シリーズでは、デジタル技術によって、無縫製ニットを製造しています。イッセイ・ミヤケで培ったニットの技術を、さらに進化させたと言って良いでしょう。
デジタル技術によって製造されるニットは、柄やパターンといったデザインを、“デジタル職人”がプログラムデータに書き換えていく作業が必要。そのため、廣川氏は「無縫製ニット自体が発展中のテクノロジーですから、それにかかわるデジタル職人も育たなければなりません」と語ります。
私たちのイメージでは、「デジタル技術のニット」というと、大量生産を思い浮かべます。もちろん、量産品にも適している技術ですが、廣川氏が考えているのは、“デジタル職人”が関わる着る人に合わせた服。
「考えているのは、もっと細かなデザインや製法の面白さの可能性です。だからこそ、自分たちの衣服をオートクチュールにならって『デジタル クチュール』と呼び、職人とともに技術の発展を目指しているんです」と、語る廣川氏。今後の進化が期待できる「skin」シリーズは、ニューヨーク近代美術館にも所蔵されるなど、世界的にも評価を受けています。

異業種とのコラボレーションや新ブランドにも挑戦


参照:https://riemiyata.com/fashion/48011/

廣川氏は異業種とのコラボレーションや新ブランドのデザインなども積極的に手掛けています。2006年に独立したときに設立したデザイン会社、「SOMA DESIGN」で幅広くデザインの仕事をしたいと思っているようです。
例えば、ヤマハ発動機とコラボレーションした電動車椅子「タウルス(Taurs)」は、福祉の世界では見過ごされがちな「美しさ」を追求し、機能性も重視したデザインとなっています。
また、カットソーなどの縫製を手掛ける香川県にある「川北縫製」とは、「SANUA(サヌア)」という新ブランドを展開。瀬戸内の自然をモチーフにしたデザインを発表していくとのことです。
近年、新型コロナ感染症のため、大きく変化した社会構造の中でも、廣川氏は「服が好き、アートが好きなど『好きなこと』は突然には変わらない、これからも“好き“でいてくれる人々の喜びのために、デザイナーの仕事があります」と語ります。その言葉通り、今後も世界的な活躍が期待できる日本のデザイナーと言えるでしょう。