前回のDOW?服と仲良くなる方法の「グッチ暗殺事件の真相!「ハウス・オブ・グッチ」につながるあの事件を解説」では、グッチ暗殺事件の真相として、マウリツィオ・グッチの殺害からマウリツィオの元妻パトリツィア・レッジャーニに警察が目を向けたところまで事件が展開しました。
電話の男が語ったこととは?
警察に電話をかけてきた男は、たまたま犯人たちの会話を聞いてしまったと言い、犯人たちがマウリツィオの元妻パトリツィアを脅迫しようとしていたとノッチェリーノ捜査官に話します。
犯人は「元夫の遺産全てを手に入れる道を切り開いてやったのに見返りに得たのはパンくずのようなわずかな金額だ。もっと金が欲しい」と言い、会話の中にはパトリツィアの友人ピーナの名前も出てきていました。
そして犯人たちが再びパトリツィアに接触しようとしていることもわかりました。
実行犯の全貌を抑えるためにノッチェリーノ捜査官は動き始めます。
事件の裏でパトリツィアとピーナがつながっていたことに確信を得たノッチェリーノ捜査官らは、潜入捜査で犯人グループの会話を盗聴することに成功します。
そこでは、実行犯はピーナの紹介でパトリツィアからマウリツィオの殺害を依頼されたことが語られていました。
パトリツィア逮捕
1997年1月31日、殺人を依頼した容疑者として、パトリツィアがついに逮捕されます。ついにマウリツィオ殺害の主犯はパトリツィアに絞られたのです。
逮捕後、パトリツィアの家にはマウリツィオ暗殺を示唆するピーナ宛の振込の証拠が押収され、それが裏付けとなってパトリツィアは事件の主犯として起訴されることになりました。
しかし、裁判がはじまりましたが彼女は一貫して容疑を否認し続けました。裁判は動機が謎のまま進みます。
パトリツィア・グッチの人物像
ここで、パトリツィアの人物像を振り返ってみましょう。
パトリツィアは「レディー・グッチ」と呼ばれた人物だったのですが、なぜ彼女は元夫を殺害しなければいけなかったのでしょうか?
出展:COSMOPOLITAN
左 マウリツィオ・グッチ/右 パトリツィア・レッジャーニ
パトリツィアとマウリツィオは1972年10月28日に結婚しました。
このとき、グッチ家の皆が「パトリツィアはマウリツィオを愛していない。お金が欲しいだけだ」と口にしていたと言います。グッチ家全員が2人の結婚に大反対していたのです。
パトリツィアの生い立ち
パトリツィアが育ったのはミラノ郊外にある労働者の街でした。父親はおらず、母親はバーで皿洗いの仕事をしていて、グッチ家のような大富豪とは無縁で、日々の食事にも困るほどの極貧生活で育ちました。
しかし、パトリツィアが8歳のとき母親が裕福な運送会社の社長と再婚してから彼女の生活も一変します。パトリツィアは甘やかされて贅沢な暮らしができるようになったのです。
18歳の誕生日には高級車をプレゼントされました。彼女の生き方は180度変わったんですね。
パトリツィアは後にインタビューで「幸せはお金では買えません。でもお金はないよりあった方が良いです。自転車に乗って喜ぶより、ロールスロイスに乗って泣く方が良い」と語っています。
若い頃の経験がパトリツィアがお金に執着するようになった理由なのでしょうか・・・。
パトリツィアとマウリツィオの出会い
パトリツィアとマウリツィオは、とあるパーティで出会います。グッチ家の御曹司だったパトリツィアは当時大学生で、当然まだ独身でした。
そんな彼に関心を持ち、親しくなることを目的としてパトリツィアはマウリツィオに接するようになりました。
当時の知人のコメントによると、この頃のパトリツィアは社会的地位の向上を望んでいたようです。そんなときに出会ったグッチ一族のマウリツィオはパトリツィアの欲を満たすことにピッタリの存在だったのでしょう。
マウリツィオもパトリツィアをすぐに気に入って、2人は恋に落ち結婚します。
マウリツィオは、結婚に大反対するファミリーとの関係を断ってでもパトリツィアとの生活を選んだのです。
結婚した後のパトリツィアはしばらくグッチファミリーに受け入れらることはありませんでした。ようやく迎え入れられたのは、パトリツィアがマウリツィオとの子供を産んだ後でした。
グッチ一族の諍いの陰にパトリツィアの姿が…
ようやくグッチファミリーとして迎えられたパトリツィアでしたが、全員が彼女を歓迎したわけではありません。特に彼女を警戒していたのはグッチ2代目社長のアルドでした。
「グッチ暗殺事件の真相!「ハウス・オブ・グッチ」につながるあの事件を解説」でご紹介したとおり、アルドはマウリツィオとパオロの結託によってグッチ2代目社長の座から引きずり降ろされ、マウリツィオはグッチ3代目社長に就任します。
グッチ関係者の中には、このシナリオをマウリツィオにけしかけたのは、グッチの全てを欲しがっていたパトリツィアではないかという見解もあります。
実は2代目社長アルドは勝手なことをする息子パオロに嫌気がさしていて、これからのグッチのことはマウリツィオに期待していたのです。パトリツィアはこの関係を利用して自分にとって邪魔な存在になるアルドをグッチファミリーから追放する策略を練ったのではないかと言われています。
こうしてパトリツィアは強く望んでいた富と名声を手に入れて世界的ブランドの社長夫人となり、ブランドに君臨するレディー・グッチとなったのです。
何が彼女を犯罪に向かわせたのか?
欲しいものを全て手に入れたはずのパトリツィアは、どうして元夫を殺害するに至ったのでしょうか。
マウリツィオとパトリツィアの幸せな結婚生活は、あまり長くは続きませんでした。
その背景には、マウリツィオがやっとグッチブランドのトップになれたのに、パトリツィアが経営にまでうるさく口を出してきたという理由がありました。パトリツィアはグッチの実権も握りたかったのかもしれませんね。
耐えかねたマウリツィオはとうとう「君の束縛にもう耐えられない」と言い残して、家を出ていきました。
2人の結婚生活の最後の方は険悪そのもので、パトリツィアが社長夫人になって全てを手に入れてからわずか半年後に2人は別居してついに離婚します。
マウリツィオの新恋人の登場とグッチ経営難
離婚成立後、マウリツィオにはパオラ・フランキーという新しい恋人ができました。
それを知ったパトリツィアはマウリツィオの再婚をとても心配しました。その理由は、マウリツィオが再婚するとグッチ家の資産をまるごとは相続できなくなるからです。
パトリツィアにはさらに災難が続きます。パトリツィアが去ったグッチは経営難に陥ってしまい、マウリツィオが独占していた株のほとんどを投資会社に売却してしまったのです。
この時点で、グッチというブランドはファミリーのものではなくなってしまいました。
パトリツィアは、もはや自分にレディー・グッチとしての価値はないということを受け入れなくてはならないのですが、この事実は彼女にとっても非常に受け入れがたいもので心を強く揺さぶるようになります。
パトリツィアにとってマウリツィオが行ったことは「裏切り」でしかなく、動揺は計り知れないものでした。
このときにパトリツィアのすぐそばにいたのがピーナだったのです。
パトリツィアとピーナの裁判の行方
ピーナは殺人教唆の共犯として有罪となり懲役13年の刑に服すことになります。
出所後のピーナはパトリツィアとグッチに対してこう語っています。
「(パトリツィアはグッチの株を)絶対に売って欲しくなかったのです。パトリツィアにとって大きなショックでした。だって、彼女はブランドであるグッチと結婚したのですから、彼女のものでなくなったら正気を失うのは無理もない。
もし、私が殺し屋を彼女に紹介していなければ・・・そう思うと、今も良心の呵責にさいなまれます。」
有罪となったパトリツィア
パトリツィアは裁判で罪を一切認めることがないまま有罪となり、刑務所で18年間刑に服します。
出所後の彼女にマウリツィオについてインタビューをした記者がいるのですが、パトリツィアは「生涯唯一の男性はマウリツィオで、今でも愛している。マウリツィオをずっと愛し続けている。しかし、彼は私を完璧に失望させた。」と語ったそうです。
パトリツィアは離婚後にもグッチファミリーの一族であることにこだわり続けていて、離婚協議書にもパトリツィア・レッジャーニ・グッチとグッチの名をサインしています。
そして、パトリツィアは記者にこう語りました。
「私はパトリツィア・レッジャーニ・グッチ。永遠にね」
何もないところから多くを手に入れたパトリツィアにとって、グッチが失われることはあってはならず、グッチという名に生涯とらわれ続けていくのかもしれません。
(次回に続きます)