無意識にファッションへの興味が芽生え、パタンナーを目指す
熊切秀典氏 参照:https://www.afpbb.com/articles/-/3115650
熊切秀典氏は、1974年生まれ、神奈川県厚木市出身です。専門学校では、デザイナーよりも「技術を身に着けたい」という気持ちからパタンナーを志望。卒業後はコム・デ・ギャルソンでパタンナーとして活躍します。2004年にはパタンナーとして独立、2006年にはブランド「ビューティフル・ピープル」を立ち上げて、デザイナーとしてのキャリアが始まりました。デビューコレクションではパタンナー出身の緻密な服づくり技術と、「大人の子供服」という個性的なアイデアの「キッズシリーズ」が話題となり、人気ブランドへ。今回は2020年には第38回 毎日ファッション大賞も受賞した話題のデザイナー、熊切氏をご紹介します。
ニットに囲まれて育ち、文化服装学院へ
高校卒業後の熊切氏は、大学進学の希望が叶わなかったこともあり、服飾の専門学校である文化服装学院へと進学します。「自分から率先して文化に入ったわけじゃないんです」と言う言葉通り、2回目の浪人生活を避けるため、という理由が大きかったようです。
しかし、熊切氏にはあまり意識していなかった、ファッションへの大いなる興味がありました。彼の母親はニットデザイナーとして編地を開発する仕事をしていました。そのため、幼い頃から周囲にはニット製品やファッション雑誌などがあり、ファッションに関することは自然に目に入ってきていたと言います。子供の頃からの体験があってこそ、母親が勧めた文化服装学院への入学を違和感なく受け止められたのでしょう。そして、この選択こそが、熊切氏にとって定められた選択だったのかもしれません。
服をつくる技術に惹かれてパタンナーの道へ
文化服装学院では、デザイナーを目指す「デザイン科」ではなく、技術を身に着ける「アパレル技術科」に進みます。それは、1年生のときに山本耀司氏の講義を受けて、パタンナーの重要性を知ったからです。
「技術的なことに惹かれるものがあったんです。自分自身が職人気質というか」との言葉通り、もともと技術を身に着けたいと思っていた熊切氏は2年生の専門科選択時にアパレル技術科へと進み、まさに「職人的」なパターン技術の基礎を学んでいきます。
このことこそが、卒業後コム・デ・ギャルソンへ就職をしてパタンナーとしての実績を積み、独立後の緻密なパターン技術と個性的なデザインが融合した熊切氏のコレクションにつながっていくのです。
服づくりを知り尽くしたデザイナー
キッズシリーズ 参照:https://www.fashion-press.net/news/46115
「ビューティフル・ピープル」を立ち上げて、デザイナーとしてデビューした熊切氏は、すぐにファッション業界で注目を浴びる存在となります。その大きな要因は、5歳の子供服を大人の女性に着せた「キッズシリーズ」でした。ここから、現在に至るまで熊切氏は多くの個性的なモードを発表し続けています。
パターン技術に裏打ちされた「見た目はふつうだけど、他とは違うもの」
ビューティフル・ピープルが提案するのは、「見た目はふつうだけど、他とは違うもの」。ただ、それは奇をてらったものではありません。着る人のことを考え、緻密に計算された高度なパターン技術によってこそ、成し遂げられるものなのです。
「キッズシリーズ」もそのひとつです。「大人のための子供服」をコンセプトに作られている同シリーズは、一見すると子供服をリサイズしただけのように見えます。しかし、実際には、胸とお腹周りのアプローチの仕方やダーツのとりかたの変化など、大人と子供の体型を考え抜いた高度なパターン技術が用いられているのです。
参照:https://www.fashion-press.net/news/46115
また、ビューティフル・ピープルの代表的なアイテムとしては、「ライダースジャケット」と「トレンチコート」があります。ライダースジャケットは、製品の状態で洗い、一つ一つ手作業で艶を出す加工を施し、デッドストックのような雰囲気に仕上げているのが特徴です。
参照:https://www.fashion-press.net/news/46115
トレンチコートでは、素材のコットンには希少品種の中でも最高峰にあたるアルティメイトピマを使用。また、日本屈指の縫製工場で丁寧に製作しています。
いずれも、定番商品ですが、熊切氏がコム・デ・ギャルソン時代にメンズできちんとしたテーラードのパターンを学んできた集大成とも言える「一生モノ」のアイテムです。
多彩なコラボレーションで展開する世界的なブランドへ
参照:https://soen.tokyo/fashion/feature/beautifulpeople210817/
熊切氏は、デザイナーデビュー以来、さまざまなコラボレーションにも取り組んでいます。2012年にはイギリスのブランド「マッキントッシュ」や「アクアスキュータム」、「VAN」とのコラボをきっかけに、三越伊勢丹のプライベートブランド、「ジョン・ストーンズ」などのイギリス老舗ブランドとも組んで商品を展開してきました。また、珍しいところでは、「テディベア」とのコラボで、ぬいぐるみが着用するライダースジャケットを提供しています。
2020年には、第38回 毎日ファッション大賞を受賞、パリコレにも2017年から参加しており、世界に向けての足がかりも万全になっています。
熊切氏は母親の勧めでファッションの道に進んだことを「そうなるべきだった、と言うと恰好つけているように聞こえるけれど、やっぱり合ってたんだと思う」と語っています。そして、「ファッション以外にやりたいことはない」と言うように、今後のさらなる飛躍を目指して、活発な活動を続けています。