今、注目される日本のデザイナーⅩ~三原 康裕(みはら やすひろ)~

「人と芸術の調和」を目指して


三原 康裕氏 参照:https://www.omotesandohills.com/feature/2020/006740.html

三原康裕氏は、1972年生まれ、長崎県出身のデザイナーです。多摩美術大学在学中からシューズデザインを開始。その後はアパレルデザインも手掛け、東京コレクション、ミラノコレクション、パリコレクションへと進出、世界的な知名度を得ています。「人と芸術の調和」を目指し、シューズデザインを始めたという三原氏。ファッションとアートについて独自の哲学を持つ同氏の人物像に迫ります。

アート作品に囲まれて育ち、東京の美大へ進学

三原氏の母親は油絵を描く画家でした。そのため、小さい頃から家の中にはゴッホやピカソ、ダリなど世界中の有名画家の画集があり、それを絵本代わりに見ながら育ったと言います。
その幼い頃からの影響と母親からの勧めもあり、三原氏は東京の多摩美術大学へと進学します。学生時代の同氏は「芸術」について、非常に深く考察をしてゆきます。「絵に縛られてしまい、もっと大きなものに気づかなくなってしまわないかと思い始めた」という理由で、美大に在学しながら絵を描くのをやめてしまうなど、迷いと考察の日々が続きます。そして、約一年後、三原氏は、「芸術とは一体何か?」という問いと、「絵を描かなくなった自分は何を創作すればよいのか」という悩みを解消する糸口として、靴を製作することを思いつくのです。

「身につける芸術」としての靴


2014年秋冬のプーマとのコラボシューズ 参照:https://www.fashion-press.net/news/79451

三原氏は子供の頃に美術館へ行ったときに、作品を触ろうとして怒られた経験があるそうです。そこから「美術作品は守られていて、人々とは距離がある」との考えを持つようになります。
大学時代の三原氏は、それを覆して「身につける芸術」を実現させようと考えました。そして、「人と芸術の調和」を目指し、「究極として人が使って捨ててしまうもの」である靴という象徴的なアイテムを選択したのです。また、もうひとつ、彼には重要なポリシーがありました。「芸術は人に教えてもらうものではない」ということです。つまり、三原氏は独学で靴づくりを始めたのです。
もちろん、それは苦難の道のりでした。技術的にもそうですが、靴製作における芸術性の問題も彼を悩ませます。しかし、その悩みや迷いは、見事に作品へと昇華され、卒業後には「MIHARAYASUHIRO」ブランドを設立し、異色のシューズデザイナーとして、大きな注目を浴びることとなります。

靴も洋服も、すべて独学で始めた独自哲学


参照:https://www.fashion-press.net/news/79451/2

三原氏のポリシーは、「芸術は人に教えてもらうものではない」ということ。その言葉通り、大学時代に始めた靴製作も、卒業後にブランドとして開始したウェア製作もすべて独学でした。自分で調べて、考えながら製作することで固定概念にとらわれない三原氏独自の表現が生まれていきました。

ウェアでも世界的に認められるデザイナーへ


参照:https://www.fashion-press.net/news/83181

大学卒業から3年後の2000年には、世界的なシューズメーカーであるプーマとのコラボレーションでスニーカーを限定発売。わずか3日で完売して、世界から大きく注目を集めました。並行して、ウェアの製作にもチャレンジし、東京コレクションを皮切りに、ミラノ、パリと、世界トップのコレクションに現在でも参加し続けており、国内外から高い評価を受けています。
三原氏のデザインは、ストイックでありながら遊び心を持っていることが特徴。ただ、「このデザインはこういうものを表現している」というデザイナーの主張はあまりなく、「服を見る人、着る人が自由に答えを想像しストーリーを思考してくれる」ことを希望しています。そして、想像してもらうことこそが、三原氏が若い頃から目指している「人と芸術の調和」の実現につながると語ります。

2021年より、サスティナビリティに取り組む新プロジェクト始動


参照:https://www.fashion-press.net/collections/gallery/83181/1420360

世界が新型コロナ感染症の影響を受け続けている現在でも、三原氏は精力的に行動しています。世界の価値観が変化していく中、ファッションは固定概念をひっくり返すような変化をしていくだろう、と言います。「ファッションの根本は、ある意味、狂気だと思う」と語り、新しいトレンドに期待を寄せます。
型破りな考えや言動も多い三原氏ですが、2021年に立ち上げた新プロジェクト「ジェネラルスケール」では、サステナビリティをテーマに打ち出しています。
「人類や環境が崩壊したら狂気も表現できませんから」と語る三原氏。新コレクションのシューズはすべて土に還る素材を使用しています。「ファッションは流行ったら廃れるものだから、サステナビリティは我々の責任です」とも語っています。
パフォーマンスではない、本気で取り組むサステナビリティを掲げながら、デザインや自由な表現との共存を図ってゆく、それが三原氏のスタンスと言えるでしょう。