今、注目される日本のデザイナーⅪ~中山 路子(なかやま みちこ)~

洋服に興味を持つのが遅かった分、努力をして才能が開花


中山路子氏 参照:https://canalize.net/archives/3202/2

中山路子氏は、東京都の出身。2007年に自らのブランド「MUVEIL(ミュベール)」を設立し、動物や植物の刺繍やキュートなデザインで現在に至るまで多くの人気を博しているデザイナーです。ただ、ほかのデザイナーたちとは違い、大学生になるくらいまで、それほどファッションに興味がなかったようで、本人もそれが「ハンデだった」とも語っています。では、なぜハンデがあったにもかかわらず、これほどまで人気のあるデザイナーになれたのでしょうか。その理由を中山氏の洋服にかける思いとともに、ご紹介していきましょう。

銀座でのウインドウショッピングが運命を変えた

「幼少期からずっとピアノを習い、外に出るよりは家で練習をしていることが多かったです」と語る中山氏。美術などには興味はあったようですが、洋服への興味は浅く、制服で過ごすことも多かったと言います。
それを大きく変えたのは、大学に入って友達と銀座へ買い物に出かけたときでした。中山氏は東京出身ですが、銀座にはあまり行ったことが無かったようで、街の華やかさに衝撃を受けました。「ショーウィンドウに並ぶお洋服を見て、眺めているだけで気持ちを高揚させてくれるもの、そしてちょっと違う自分に変身させてくれるものがこんなに身近にあったんだ!」と、ファッションの可能性を体感したそうです。
その日から中山氏の人生は、大きく転換します。ファッション関連の雑誌などで、女性像やファッションの時代背景などにも触れることにより、洋服へのあこがれが次第に強くなっていったのです。
その強い気持ちは、中山氏に大胆な決断をさせます。まず、ダブルスクールとして服飾専門学校に入学、しかし、夜間での限られた時間では満足できずに大学を中退して、転学してしまいます。

「遊び感覚」でも、真剣につくりたい服をつくった20代

服飾専門学校に転学してからは、ひたすら勉強の日々を送ったそうです。「小さい時からお洋服に囲まれて過ごして来たクラスメイトが多かったので、みんなには当たり前のことでも、私にとっては知らないことだらけ。疑問やわからないことをただただ端からひとつずつ紐解いて行くのに必死でした」と話します。
洋服に興味を持ってから日が浅いため、就職活動でも周囲に遅れを取ってしまった中山氏ですが、無事にデザイナーアシスタントの職を得ます。そして、その会社で知り合った友人と「モスライト」というブランドを立ち上げて、休日を利用して自分たちの服づくりをはじめました。
「一言で表現するなら“遊び感覚”だったんです。土日にはもっと自由な感覚で物作りをしたかった。たくさん売りたいとか、原価は幾らとかそういう小難しいことは抜きにして、ただ作りたいから作る」と、語るように、中山氏が初めて洋服に興味を持ったときの衝撃が服づくりへの情熱へと変わっていったのです。それは「20代のほぼ全てをモスライトのクリエーションに捧げてきた」と語るほどでした。そして、その努力こそが、才能を開花させ人気のデザイナーへと彼女を導いたと言えるでしょう。

新しいけれど、懐かし服をつくる


参照:https://www.fashion-press.net/news/25665

モスライトは商業的なブランドへと成長しますが、友人との方向性の違いにより2007年に解散します。その後、中山氏は自らのブランド「MUVEIL(ミュベール)」を設立。「“はじめまして”という洋服ではなく、どこか懐かしい過去の記憶が寄り添うような世界観を大切に、ブランドをスタートしました」と語る、そのブランドコンセプトとはどのようなものでしょうか。

年齢を重ねることで、さらにファッションを楽しむ


グランマチャーム 参照:https://humming-earth.com/mirai/its-my-story-3/

ミュベールを代表するキャラクターに「グランマチャーム」があります。年齢を重ねた女性をモチーフにしており、「歳をとることにポジティブなメッセージを持ちたかったから」と中山氏はキャラクターのコンセプトを語ります。
このことでもわかるように、ミュベールは、「歳を重ねることで、さらに素敵になってゆく」ことを発信しているブランドです。ですから、流行などに大きくとらわれずに、長く着られるということがミュベールというブランドの主流となっているのです。

お気に入りの洋服を長く着続ける時代へ


参照:https://www.muveil.com/html/page906.html

「長く着続けられる服をつくる」という中山氏のコンセプトは、現在の社会においてさらに重要性を増しています。流行を追い求めて、シーズンごとに新しい洋服を大量に製造するアパレルの構造は、現在見直されつつあるからです。中山氏の考え方は、ものを大切にする日本文化の精神、そして、現代のサスティナブルな社会にも合致しています。

参照:https://www.muveil.com/html/page906.html

中山氏が服づくりのときに考えるのは、「おばあちゃんになっても着れるかな?」ということだそうです。「おばあちゃんになってもクローゼットに残る服、長く愛してマイヴィンテージにしていってほしいという思いをミュベールでは大切にしていきたいです」と語る中山氏。生涯のお気に入りの一着を見つけられる、数少ないブランドと言えるでしょう。