今、注目される日本のデザイナXIII~天津 憂(あまつ ゆう)~

ニューヨーク、日本、アジアで培われたデザイン力


天津 憂氏 参照:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000069306.html

天津 憂氏は、1979年生まれで大阪府の出身です。東京モード学園卒業後、単身ニューヨークへ渡りさまざまな経験をした後に帰国。「エー ディグリー ファーレンハイト」という自らのブランドを立ち上げます。ブランド名称の由来は「温度」で、日本で使用される摂氏は“自然”が基準の温度の単位、一方、アメリカで使われる華氏(ファーレンハント)は“人”が基準という概念で、自分の温度感でデザインするという意味合いということです。ブランドでは、日本国内のみならず、アジア各国、ヨーロッパなどでもコレクションを発表、世界的に活躍するデザイナーとして認知されています。

単身ニューヨークへ渡り、新ブランドの立ち上げに関わる

2004年に単身でニューヨークに渡った天津氏。コネなどはない渡米だったと言いますが、パターン技術を習得していたため、すぐに仕事は見つかります。そして、翌年の2005年には、後にニューヨークコレクションなどでも活躍するアジア系デザイナー、ジェンカオのブランド「Jen Kao」の立ち上げに関わります。
ブランドではメインパタンナーを務める一方で、全米最大のファッションコンテストである「GEN ART International Design Competition」に参加。個性的なデザインが高い評価を受けてアバンギャルド、メンズ部門で2006年、2007年と、2年連続のグランプリを受賞しています。
アメリカでの仕事について、「欧米ではシーズンごとに契約交渉を行うことが一般的。デザイナーと共に服づくりをしていく中、自身のデザイン力はもちろん、プレゼンテーション力も鍛えられた」と語るように、世界スケールの経験を積んでいきます。
その経験は、帰国後にも大きく活かされることになります。若手デザイナーのスタートアップをサポートする「文化ファッションインキュベーション」の支援を受け、自らのブランド「エー ディグリー ファーレンハイト:A DEGREE FAHRENHEIT」を立ち上げると、斬新なデザインに国内でも大きく注目されていきます。

日本やアジアでの活躍、ハナエ・モリのデザイナーにも抜擢

ただ、ブランドが軌道に乗るまでには苦労もあったと言います。日本でのビジネス経験が無かったため、生地メーカーや縫製工場をイチから探さなければならなかったことです。そこで、天津氏は、自ら産地である尾州、北陸など直接産地へ足を運んで交渉、徐々に良い関係を築いてゆきました。
その後2010年には東京コレクションにも参加、上海、台湾、韓国、ドイツやサウジアラビアでもコレクションの発表し世界的な知名度を獲得。2014年には日本でも有数の老舗ブランドである「ハナエ・モリ」のデザイナーにも抜擢されています。
しかし、2018年にハナエ・モリの契約期間が終了してからは、 エー ディグリー ファーレンハイトでの積極的な活動は途切れてしまいます。ただ、天津氏自身は、さまざまなイベントや企業とのコラボレーションを継続していました。

2021年にブランドが再開、サスティナブルな素材も使用


ハナエ・モリ時代のデザイン 参照:https://lulucos-bys.jp/article/475224684694720629

2018年以降の天津氏は、2019年の6月に開催された「G20大阪サミット2019」で、配偶者プログラム(来日した各国首脳の配偶者をもてなすプログラム)の歌舞伎衣装や総合演出を担当しています。また、同年のラグビーワールドカップでは、開会式のパフォーマンスで着用する着物のデザインを担当するなど、世界的なレベルでの活躍が続きます。そして、2021年には、エー ディグリー ファーレンハイトもリスタートを切ります。

新生エー ディグリー ファーレンハイトのデザイン


YKKグループの新社服 参照:https://senken.co.jp/posts/ykk-210325

天津氏は、過去にメルセデス・ベンツの制服を手掛けたほか、企業ウェアデザインの経験も豊富です。2021年には、YKKグループの社服を手掛けています。同社の場合には、国際フェアトレード認証を取得したコットンを採用、また、ジェンダーレスも意識して男女兼用を実現しています。さらには、ユニフォームとしての役目が終わった新社服は回収して解体し、リサイクル糸にして次の社服の製造に生かすといったリサイクルにも取り組む予定。まさに現在叫ばれている、持続可能な社会を実現するための、さまざまなアイデアを具現化したユニフォームと言えるでしょう。
また、2021年は、天津氏が手掛けるブランド、エー ディグリー ファーレンハイトもリスタート。以前から評判の高いスタイリッシュなデザイン、そして天津氏自ら「“ありそうでない”アイテムを手がけていきたい」と、語るように革新的なアイデアも魅力です。

機能的でサスティナブルを目指す


参照:https://www.mensnonno.jp/post/159606/?cx_elements=feature#shm-vp-2

そして、新生エー ディグリー ファーレンハイトの大きな特徴は、D2Cで販売することです。ブランドから消費者へとダイレクトに販売することにより、中間コストを下げることを実現。その分、こだわりの素材を使い低価格での販売が実現しています。
また、YKKのユニフォームのように、時代に即したこだわりは、ブランドでも存分に取り入れられています。例えばダウンジャケットの場合、700フィルパワーの上質ダウンと、多くの機能を兼ね備えたハイテク中綿を使用したハイブリッドなダウンコートでありながら、生地表面にはペットボトルを主原料にしたサステナブルな素材を使用しています。
このような機能性とサスティナビリティを意識したブランド展開は、これからの時代が必要とする条件となります。それに加えて、高いデザイン性を維持していることは、今後も国内のみならず海外でも大きな注目を浴びるでしょう。