今、注目される日本のデザイナーXVII~津森 千里 (つもり ちさと)~

「女性も手に職を持って自立するべき」と勧められファッションの道へ


津森千里氏 参照:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001272.000008372.html

津森千里氏は1954年埼玉県狭山市の出身です。自身が好きなこと、興味のあることを表現した独創性に富むデザインは、「カワイイ」を大人の社会に浸透させ、日本のみならず海外でも人気を博しています。「ファンタジック」で人々を「ハッピー」にするコンセプトのデザインを次々と生み出すデザイナー、津森氏。今回はその横顔をご紹介します。

「デザイナーってどんな人がなるんだろう」と思っていた学生時代

幼い頃の津森氏は、自然が多い実家の周囲で川遊びをしたり、野原を駆け回ったりする活発な少女だったといいます。一方では、家のなかで少女漫画を読み耽ることもあり、自分で漫画を描いて密かに漫画家を目指していた時期もありました。
そんな普通の少女が洋服に興味を持ったのは、母親の影響でした。裁縫が得意で、よく洋服を縫ってくれていた母親の姿を見て、中学生の頃に初めて見よう見まねで自分の洋服を製作、津森氏はそこから服づくりに魅了されていきます。
高校卒業後は母親の「これからは女性も手に職を持って自立するべき」という勧めもあり、文化服装学院へ進学、最初は「服づくりの基礎が学べればいいな」との軽い気持ちだったため、「デザイナーってどんな人がなるんだろう」などと、他人事のように思っていたそうです。
しかし、同級生が次々とコンテストで入賞していくのを見て、一念発起。コンテストを目標に服づくりに集中するようになり、佳作ではありますが、在学中に4回も入賞を果たすまでになってゆきます。

イッセイミヤケでのブランド展開、そしてパリへ


参照:http://www.2121designsight.jp/documents/2018/10/waku-work-talk.html

「ファッションデザイナーになる」ことを意識し始めた津森氏は、卒業後の1977年にイッセイミヤケインターナショナルに就職します。配属されたのは「イッセイスポーツ」。そこで津森氏は、アシスタントながら、自分の自由な発想を提案していきます。
そんな少し生意気とも取れる津森氏に三宅一生氏は「パタンナーやスタッフとのチームワークを大切にしろ」「大きな視点でダイナミックにつくれ」とのアドバイスを送ります。既製服のデザインは小さくまとめがちですが、三宅氏は逆に小さくまとめるな、というアドバイスをしたのです。津森氏は、この言葉を現在でも自分の服づくりの根幹を成していると語っています。
1983年に「イッセイスポーツ」は津森氏がチーフデザイナーに就任。ブランド名も「I.S. Chisato Tsumori Design」へと変更しました。そして、1990年には自身のブランドである「TSUMORI CHISATO」を立ち上げ、「カワイイ」「楽しい」を存分にアピールしたデザインで、国内外で話題のブランドへと成長します。

ブランドの終了と再開

2002年には毎日ファッション大賞を受賞し、翌年にはパリコレにもデビュー。海外でも津森氏の「カワイイ」は人気を博して、世界的なデザイナーとして認められる存在になります。ただ、時代の趨勢もあり、津森氏が60歳になった頃を境にして緩やかに活動が減少。そして、2019年4月、ブランドを運営していたイッセイミヤケグループの「エイ・ネット」は、「TSUMORI CHISATO」のブランド事業を終了することが発表されました。

少数精鋭でより活動しやすく


参照:http://tsumorichisato.co.jp/collection/

当初、「TSUMORI CHISATO」ブランドは終了の予定でしたが、津森氏は自身のデザイン会社「ティー・シー(T.C.)」でのブランド引き継ぎを発表。2020年春夏シーズンよりリスタートを切りました。
「好きなことをやるのはこれまでと一緒でしたが、今の事務所のスタッフは9人。ずっと一緒に服をつくり続けてきた仲間たちです。最小限のスタッフが残ってくれ、身軽になったことで今までよりも活動しやすくなりました。少数精鋭ですが、これまで以上にしっかりとした物づくりができると思っています。これからも“HAPPY”な気持ちを大事にして、自分が着たいもの、つくりたいものを集中してつくっていきます」と語るように、津森氏自身もさらに精力的な活動をしていくものと考えられています。

「なんとかなる」の精神で不安な時代を乗り切る


参照:http://tsumorichisato.co.jp/collection/

ブランドのファンやバイヤーなど周囲からの応援もあり、リスタートした津森氏ですが、世界は新型コロナ感染症が蔓延する只中にあります。アパレル業界にも、その影響が大きくのしかかっていますが、津森氏は意外にも楽観的なようです。
「私はいつも『大丈夫』 『なんとかなる』と思っています。人生楽しく生きたいと思っていますから」と語るように、ツモリチサトの洋服と同じくハッピーな気持ちを持って、ポジティブに進んでいます。
個人の不安や社会的な不安、さまざまなことがありますが、思い詰める気分を切り替えることも大切。津森氏がデザインするアイテムのように、楽観的に人生を楽しむ気持ちも必要なのではないでしょうか。