母親の影響で、呉服店からファッションデザイナーの道へ
阿部潤一氏 参照:https://www.vogue.co.jp/fashion/article/editor-in-chief-meet-with-kolor
阿部潤一氏は1965年生まれ、山形県の天童市の出身です。文化服装学院卒業後、ヨウジヤマモトなどを経て、2004年に自身のブランドである「kolor(カラー)」を立ち上げました。実家は同市で祖父の代から続く呉服店で、その環境から阿部氏のデザインには「和」の要素も多く見られます。妻は、世界的なデザイナーである「sacai」の阿部千登勢氏であることはよく知られています。今回は、繊細な調和を実現するデザイナー、阿部潤一氏をご紹介します。
小学生の頃から芽生えていた洋服への興味
阿部氏の母親は、文化服装学院でコシノジュンコ氏と同期に学んだ方で、非常におしゃれだったといいます。呉服店の仕事で出かけるときにも、シャネルのコンビの靴を履き、イタリア製のバッグという出で立ちで営業をしていました。
母親は阿部氏に対しても、質の高いものを与えていたようで、「VAN BOYSのジャケットとかモヘアのタートルネックとかを買ってきて、小学校でちょっと浮くんですよね(笑)。それから中学生の僕にグッチのベルトを買ってきたりするんです。「G」のバックルの(笑)。何これ? と思ってました」と、子供の頃の思い出を語っています。
ただ、このように小さい頃から上質なファッションに触れることにより、阿部氏の興味がファッションへ向いていったのは確かなようです。「僕が高校生になってDCブームがあってファッションに興味をもつようになったんですが、ファッションに対して人よりちょっと興味が強かったのは母の影響だったかもしれません」と言うように、川久保玲氏や山本耀司氏などのトップデザイナーに憧れるようになった阿部氏。その憧れを実現するために母の母校であり、多くのデザイナーを排出している文化服装学院へと進学するのです。
妻である阿部千登勢氏の成功が自身の転機に
参照:https://www.vogue.co.jp/fashion/article/editor-in-chief-meet-with-kolor
文化服装学院卒業後は、憧れのブランドであったヨウジヤマモトに就職。その後はトリコ・コム・デ・ギャルソンやジュンヤ・ワタナベでも多くの経験を積みます。特にジュンヤ・ワタナベでは、後に結婚する阿部千登勢氏とともに働き、自分のファッションが確立した時期でもあったようです。
1994年、阿部氏は文化服装学院時代の友人3人と「PPCM」というブランドを設立、自分が目指すデザインを発表していきます。
その後、大きな転機が訪れたのは、2004年、「PPCM」を解散し、現在活動しているブランド「kolor(カラー)」を立ち上げました。実は、そのきっかけになったのは、1999年に妻である阿部千登勢氏が立ち上げたブランド「sacai」にありました。
ブランド立ち上げに躊躇する妻の背中を押したのは、他ならぬ阿部氏であり、その後もさまざまなサポートをおこなったといいます。そして、「sacai」の大きな成功が、自身もチャレンジしていく気持ちを奮い立たせて、「kolor」の設立につながったのではないでしょうか。
素材、色調、時代性などの調和を目指す
参照:https://onlinestore.kolor.jp/pages/2022-spring-summer-collection-mens-look-6
ファッションは、さまざまな要素を取り込み、組み立てる作業があります。阿部氏のデザインの特徴は、その作業で出来上がった洋服のバランス感覚が、非常に優れている点にあると言われています。それは、幼少期から呉服店という「和」に囲まれて育った環境や、トップデザイナーのもとで働いてきた経験に基づく感性なのかもしれません。
呉服店の視点も活かした服づくりく
素材をつくるときに、通常、デザイナーは色見本を使用して色の指定をします。しかし、阿部氏の場合は、実家で使用していた生地の見本を使うというのです。これは、素材の違いによる風合いを大切にするためで、綿素材をつくるときには、綿の見本を使うなど、より自分のイメージを再現できる方法を取っているそうです。
このことによって、阿部氏が得意とする素材や色調、時代性などの絶妙なバランスが醸し出されているのです。そして、そのバランス感覚は、幼い頃から目に焼き付いているであろう、「着物」の色彩バランスにも似ています。
価値観が変化した時代のファッション
参照:https://onlinestore.kolor.jp/pages/2022-spring-summer-collection-womens-look-21
近年の新型コロナ感染症による、価値観の変化はアパレル業界においても、大きく影響しています。しかし、阿部氏のつくる服には、それを凌駕する魅力を持っていると評価されています。
阿部氏の率いるブランド「kolor」は、2021年春夏メンズ・コレクションで2年半ぶりにパリコレへ参加しました。独特の素材感は健在で、デザイン性が高く、高度な技術でつくられたアイテムは現代の若者層へもアピールしています。
「小さいころ、親に新しい服を買ってもらうと気分が上がったじゃないですか。大人になっても洋服の果たす役割はそういうことだと思うんです」と阿部氏が語るように、価値観が変化しても洋服に対するエモーショナルは揺るがないでしょう。そして、その感情を刺激してくれる感性が、阿部氏のつくるアイテムには宿っているように感じます。