今、注目される日本のデザイナーXXIII~森川 拓野 (もりかわ たくや)~

洋服づくりが好きだった少年が「偶然」と「出会い」でデザイナーに


森川拓野氏 参照:https://www.mistore.jp/shopping/feature/men_f2/creatorscontemporary_taakk210129f2_m.html

森川拓野氏は、1982年神奈川県の出身です。文化服装学院を卒業後、イッセイミヤケに就職しパリコレなどのデザインを担当。2012年には、一念発起をして独立を果たし「森川デザイン事務所」を設立、自らのブランドである「TAAKK(ターク)」を立ち上げました。生地からこだわった上質なアイテムが人気の同ブランドは、「Tokyo新人デザイナーファッション大賞プロ部門」など、さまざまなコンテストで受賞を重ねています。今回は森川氏の類まれなる服づくりの原点を探っていきます。

服づくりの原点は母親

森川氏の母親はニット制作の仕事をしていました。そして、森川氏がデザイナーを目指すようになったのは、この母親の影響が大きいと本人も語っています。
「姉が友達から借りてきたデザイナーズブランドのパンツを、新聞紙で型紙を起こして母が作ってくれた記憶があります。自分で作った服を友だちにあげて喜ばれたことも。そんなことをしているうちに服作りって面白いって思うようになったのだと思います。僕の服の先生は、母親といっていいかもしれないですね」と語るように、洋服の構造や製作技術など、現在につながるデザイナーとしての原点が、この時期に形成されたようです。
その後の森川氏は、迷いなく多くのファッションデザイナーを排出している名門、文化服装学院へと進学します。

イッセイミヤケを退職後、人との出会いでブランド運営


参照:https://www.mistore.jp/shopping/brand/men_b/045092.html

文化服装学院を卒業後、森川氏はイッセイミヤケに就職。ファッション業界でのキャリアをスタートさせます。同社では「21世紀の神話」という三宅一生氏のインスタレーション作品の制作から、レディースやメンズなど多くの経験を積みました。
森川氏本人も「レディース、メンズの企画からデザインなど、すべての工程に携わることができました。一生さんがつくった“自由に企画できる環境”で仕事をさせてもらったことは、本当に得難い経験になっていて、心から感謝しています」と語るように、得難い経験をしたようです。
その経験を活かして、2012年に独立。ただ、金銭的なことも含めて、軌道に乗るまでは相当の苦労をしたそうです。諦めかけたときもあったそうですが、その窮地を救ってくれたのは、さまざまな人との出会いでした。森川氏のデザインを気に入ってくれたバイヤーや、無理をお願いした縫製工場など、彼の熱意に応えるように、出会いの輪は広がってゆき、ブランドは徐々に売上を伸ばしていきました。

生地づくりにこだわったスタイルで世界から注目


参照:https://studious.co.jp/shop/g/g112302046161/

森川氏のブランド「TAAKK(ターク)」は、多くの人達の助力もあって、2017年には「TOKYO FASHION AWARD」、2019年の「FASHION PRIZE OF TOKYO」と数々の賞を受賞、副賞として2020年1月にパリ・コレクションへの参加を果たし、世界に認知されるようになります。そして、同ブランドで注目される大きな特徴が、創立当初からこだわる「生地づくり」です。

ブランドとしての矜持


参照:https://studious.co.jp/shop/g/g112253064717/

森川氏が生地にこだわる理由は、「ブランドとして当然のこと」だと思うから。「もちろんできあがりを想像するために絵はいっぱい描きますけど、生地の落ち感を把握せずにパタンナーに正確に依頼することもできないだろうし。素敵な絵型を描いて、どこを縫い目にしてどんなサイズ感で作るか――そういうのも大事だけど、実物が完成するまでにデザイナーとしてやるべきことが他に残されていたら、それをやらないと落ち着かない。せっかく服を作るんだったら、本気でやらないと」と語るように、生地づくりは、いくら手間がかかっても、「あたりまえのことをやる」という、ブランドとしての矜持とも言えるでしょう。

着てくれる人に感動を与えることに全力を注ぐこと

新型コロナウイルスの蔓延により、大きく変化したアパレル業界。そのような時代だからこそ、森川氏は変化すべきだと言います。「これまではデザイナーとして承認欲求が強すぎました。コロナ禍で目が内側に向くようになって、ようやく自分と向き合うことができたのかな。いまは服を着た人が素敵な一日を過ごせるか、どれだけ幸せになれるか、そこへ素直に向き合うことが自分の仕事だと思えるようになれたんです」と語るように、「着てくれる人に感動を与えることに全力を注ぐこと」をこれからの目標として掲げています。森川氏のつくるアイテムは、これからも多くの人に感動を与え続けてくれることでしょう。