今、注目される日本のデザイナーXXIX~小野 智海(おの ともうみ)~

文化服装学院から東京藝術大学そしてパリへ、異色の経歴を持つデザイナー


小野智海氏 参照:https://sow-fca.tokyo/sp/think/fnv/tomoumiono.html

小野智海氏は、1977年生まれのファッションデザイナーです。「_____________________ TOMOUMI ONO」という表記のブランドを2009年に立ち上げて以来、独特なファッション理論と繊細な技術が両立したアイテムが話題となっています。上記のようにブランド名の「_」アンダーラインはブランド「名前のないブランド」を表している。また便宜的に「トモウミオノ」などと呼ばれています。今回は美術論や文学論、哲学論と、多岐にわたるロジックからファッションを生み出すデザイナー、小野智海氏をご紹介します。

高田賢三氏に憧れて、文化服装学院へ

高校生の頃から高田賢三氏に憧れていたという小野氏。「熱狂的」と、自分で語るほどだったといいます。憧れと、ファッションへの思いが次第に膨らんでいった結果、小野氏は高田賢三氏の母校である、文化服装学院へと入学しました。
ファッションデザイナーを目指すのであれば、文化服装学院への進学はごく普通のことだと言えるでしょう。そして、通常の進路であれば、卒業後にはアパレルメーカーなどに就職する道を選ぶのですが、小野氏の異色の経歴は、ここから始まります。
まず、進路として選んだのは、東京藝術大学美術学部芸術学科でした。東京芸大と言えば、周知の通りの難関校、そこに小野氏が求めたものは、「理論」でした。
「美術には『美術理論』と呼ばれるものがありますが、ファッションにはファッション理論と言うものはあまり聞いたことがありませんでした」と語るように、小野氏は、独自のファッション理論の構築のために大学進学を選択したのです。芸大在学中は、美術論から哲学まで、幅広い本を読み、多方向の視点からファッションに関する、独自の理論を構築していきます。

理論を実現する技術を習得するため、パリへ


参照:https://www.fashion-press.net/collections/gallery/59828/1039611

ファッションのみならず、多方面に渡る知識を身に着けて、理論的な考えを実践することを学んだ小野氏。次に自分へ課したステップは、その理論を実現するための技術でした。もちろん、文化服装学院で基本的なこと学んできましたが、さらに本格的なオートクチュールの技術を学びたかったのです。
そこで、選んだのがフランスにあるオートクチュールの組合学校でした。「オートクチュールでは、タイユール(テイラード・スーツ)とフルー(ドレス)といって、固い布を扱う技術と柔らかい布を扱う技術の部門が分かれています。日本では平面製図による教育のため──平面製図というのは19世紀中ごろ衣服制作への幾何学の応用として発展したものですが──、あるいはドレスを着る機会というのが少ないといった事情もあって、文化的にどちらかというとテイラーの方が強いので、フランスでフルーを学びたいと思っていました」との思いから、2年ほどの期間、本格的な技術を習得しました。

個性的なアプローチで紡ぐ独自の世界観


参照:https://www.fashion-press.net/collections/gallery/59826/1039644

オートクチュールの組合学校で学んだ小野氏は、実践的な服作りを経験するために、ルフラン・フェランとマルタン・マルジェラのコレクションラインで働き、30歳のときに帰国します。そして、帰国後1年間の準備期間を経て、2009年に自身のブランドを立ち上げることになります。

立体的な手法を駆使したアーティスティックなアイテム


参照:https://www.fashion-press.net/collections/gallery/59828/1039616

小野氏の服づくりは、日本では一般的なっている平面的な製作方法ではなく、フランスで培った技術を駆使した立体的な手法を駆使したものです。
その手法のなかには、さまざまなメッセージ性も織り交ぜていて、さながら、コレクションの全体が芸術作品のようだとも言われます。「バラバラのデザインの椅子を置く時、ひとつの空間の中で椅子のの配置バランスが完璧になる奇跡的な瞬間がある。ものは物理的に存在していますが、意識をどこに置くかによってその見え方は変わります。その空間に存在するものは、周囲との関係性とともにある。僕はファッションも同様に捉えています」と、本人が語るように、研ぎ澄まされた感性により、さまざまな角度からのアプローチを試みるのが小野氏のデザインなのです。

着る人が意味を見いだせる服

個性的なファッションデザイナー小野氏がつくる洋服は、ブランド名称も無く、アーティスティックなメッセージも盛り込まれているという、ほかに類を見ないものです。
しかし、そのアイテムを見ると、決して奇をてらったものではなく、誰にでも着こなせるような工夫がされているのです。「ファッションは一つのイメージに収斂していくものではないと考えています。いくつかのキーワードから着想したアイデアを配置していく手法をとることが多い」と語る小野氏。メッセージ性を多く取り入れているのは、着る人それぞれが、意味を見出しやすくしているからとも言えます。今後も、独自のロジックに基づいて、個性的でありながら着る人のことを考えた服づくりを、さらに推し進めていくことでしょう。