パリのオートクチュールコレクションで活躍する日本人デザイナー
中里唯馬氏 参照:https://www.fashion-headline.com/article/4365/41013
中里唯馬氏は、1985年東京都生まれのファッションデザイナーです。多くの有名デザイナーを排出していることでも有名な、ベルギーのアントワープ王立芸術アカデミー ファッション科を卒業。卒業時のコレクションがヨーロッパで数々の賞を受賞して大きな注目を集めました。森英恵氏以来、日本人では2人目のパリ・オートクチュール・ファッションウィーク公式ゲストデザイナーに選出、大きな話題となりました。今回はオートクチュールを中心に活躍を続ける中里唯馬氏をご紹介します。
高校時代から海外のモードに関心を持つ
中里氏がファッションに興味を持ったのは小学生の頃だったといいます。自分の好きな洋服でおしゃれをすると、周囲の大人が褒めてくれたことがきっかけでした。
高校生になってからは、既製服では飽き足らずに、古着を自分でリメイクするなど、その興味は「着る」ことから「つくる」ということへシフトしていきました。そして、ちょうど時を同じくして、後に入学することとなる、アントワープ王立芸術アカデミーのことを新聞記事で知ります。その記事には、世界のモードについて触れていて、中里氏は「表現としての洋服」を意識するようになったのです。
「服で自分を表現する素晴らしいデザイナーが世界にたくさんいることを知って、ファッションにどんどんのめり込んでいきました。そこがファッションを目指すようになった原点です。私は、何でも直感的に突き進む性格なのです」と語るように、加速度的に膨らんだファッションへの思いは、すぐに海外留学という行動へと結びつきました。
オートクチュールを目指した原点
参照:https://www.fashion-press.net/collections/gallery/83681/1429856
アントワープ王立芸術アカデミーを卒業後は2009年に帰国し、自身のブランドである「YUIMA NAKA-ZATO」を設立します。その初期の頃、オートクチュールという手法を、あらためて目指そうと思った出来事がありました。
それは、あるミュージシャンの衣装を手掛けたときのことでした。その方は、ロサンゼルスに住んでいたため、フィティングまでは会ったことがなく、画像などのイメージでデザインを進めていたそうです。中里氏は気に入ってもらえるか、少し不安に思っていたそうですが、その方はフィティングの場で、ひと目見た瞬間にとても気に入ってくれたそうです。そして、それから何度もリピートして注文が入るほどだったといいます。
この体験を通して、中里氏は「その一連のやり取りを通して、着る人のことを考えてつくる面白さに出会いました。サイズがぴったり合うということだけではなく、着る人のバックグラウンドや性格、どんなライフスタイルなのかまで想像してデザインをして、喜んでいただけた」と語り、オーダーメード、オートクチュールの奥深さを学んだそうです。
サスティナブルなオートクチュールを目指して
参照:https://www.fashion-press.net/collections/gallery/83681/1429835
2000年代から、アパレル業界で大きな流れになっている「サスティナブル」。新型コロナウイルスをきっかけにして、その意味合いが更に深く考えられるようになっています。中里氏もその考えに賛同しているデザイナーの一人で、数多くの手法により、サステナビリティを推進しています。
洋服をつくる側、着る側の双方が考えるサステナビリティ
参照:https://www.fashion-press.net/collections/gallery/83681/1429842
中里氏の考える洋服のサステナビリティとは、洋服をつくる側、そして、着る側の双方が考えることによって推進されるものです。着る側は、自分の洋服がどこで製作されて、古くなったらどのように廃棄されてゆくのか、その過程を想像して意識することが重要になっています。
つくる側では、どのような素材を選ぶのか、また、より効率的な生産方法を考える必要があります。そして、もっとも重要なことが、デザイナーの思いが伝わる服をつくることだと中里氏は言います。それは、「デザイナーがどんなにいい素材を選んで、生産体制を整えて服をつくったとしても、その思いが消費者に伝わらず、短期間で破棄されてしまったら意味がなくなってしまいます」との、強固な信念があるからこその考え方なのです。
着物が持つ「お直し」という概念
中里氏のつくる洋服は、着物にインスパイアされた側面も持っています。そして、それには、サステナビリティな意味合いも含まれているのです。「着物は世代を超えて長く着続けていくものですが、よくできているなと思うのは、とてもシンプルな構造で、少しのお直しでいろんな体型に合うところ。サイズの概念がほぼないので、誰でも着られて、逆に言えば誰にも合わないようになっている。この発想が非常に未来的だと思います。サイズの概念がないことによって、誰でも着ることができるユニバーサルな構造になっているわけです」と、着物の持つ特徴を語ります。
そして、それを実践したプロジェクトが「Face to Face」というオーダーメイドプロジェクトです。これは、コロナ禍でおこなわれたチャリティイベントで、オンライン上で注文客と対話をし、その後預かった白シャツを世界で一着の衣服として仕立て直すというもの。実験的ではありますが、非対面の新しいオーダー手法に多くの注目が集まりました。
現在のアパレル業界では、圧倒的に少数派であるオートクチュール。しかし、少数派だからこそ提案できることが多くあるはずです。特に今後アパレル業界には必須となるサステナビリティに関して、中里氏はこれからも積極的に関与していくことでしょう。