日本のファッションデザイナーを知っていますか?  津森千里 編

強烈なオリジナリティで世界に切り込む日本のデザイナー

 

類まれなセンスと個性を武器に、ファッションの世界で才能を発揮するデザイナー。
あなたは、日本出身の有名ファッションデザイナーを何人知っていますか?

「世界的に有名な外国のデザイナーさんは知ってるけど、そういえば日本にはどんなデザイナーがいるのか、知らないかも…」という人も多いのでは?

この記事では、国内外のファッション業界で大活躍しているデザイナーさんをひとりずつ取り上げていきたいと思います。

今回は津森千里さん。

津森千里さんは、長年、日本女性の「かわいい!」と思うツボをグイグイ押してくるような、乙女心をくすぐられるようなすばらしい服をたくさん作ってきたデザイナーさんです。
津森さんがファッションデザイナーとしてどんな活躍をしてきたのか、詳しく見てみましょう!

 

心くすぐる「可愛い」を表現 津森千里さん

 

(「ツモリチサト」2020年春夏コレクション展示会の様子 より)
写真出典:https://www.fashionsnap.com/article/2019-09-24/tsumoritsisato-restart2020ss/

 

街のファッションビルのお店で洋服をながめていて、「これ、すごく可愛い柄の服だな~」と思ったら、“ツモリチサト”の洋服だった、という経験がある…そんな女性は多いのでは?

“ツモリチサト”の品物は、オリジナリティあふれる可愛いテキスタイルや、細かなディティールにこだわりがうかがえるデザインが大きな特長です。

津森千里さんは、1976年に文化服装学院を卒業し、翌1977年にイッセイミヤケインターナショナル(現 株式会社イッセイミヤケ)に入社して、キャリアをスタートさせたファッションデザイナー。

「イッセイミヤケ」は、言うまでもなく、日本を代表するトップデザイナーである三宅一生さん率いるデザイナーズブランドです。

 

そのイッセイミヤケインターナショナルで、津森さんは「イッセイスポーツ(ISSEY SPORTS)」のデザイナーとして活躍します。

その後、「イッセイスポーツ(ISSEY SPORTS)」は「アイエス ツモリチサト デザイン(I.S. CHISATO TSUMORI DESIGN)」にブランド名変更し、チーフデザイナーとしての立場を得た津森さんは、さらに敏腕をふるいます。

そして1990年には津森千里デザインスタジオとしてスタジオを立ち上げ、“ツモリチサト”ブランドが誕生します。

 

(画像出典元:不明)

 

イッセイミヤケグループの株式会社エイ・ネット(A-net)のライセンス契約のもと、“ツモリチサト”は、次々と可愛らしく華やかな服を発表してきました。
パリコレクションでもファッションショーに参加し、世界的にも人気のある服飾ブランドへと成長していきます。

百貨店や街のファッションビルに店舗展開し、代官山には、2019年ごろまで“ツモリチサト”の路面店も存在しました。

津森千里さん自身も、かわいいものが大好きなのだそうで、子供のころはお人形さん遊びに熱中し、いまも可愛らしい雑貨などを収集することもあるといいます。

そんな津森さんのお洋服はまさに「かわいい!!」が満載。
カラフルな花柄の生地を使用したワンピースや、ディティールに動物モチーフをあしらった服など、乙女心をくすぐられるような素敵な品をデザインしてきました。

国内では幅広い年代の女性から支持され、洋服だけではなく「ツモリチサトの財布や靴もすっごくかわいいよね!」と大好評を得ていました。


(大人可愛さが際立つ!ツモリチサトの財布やバッグがアウトレットセールに! より)
写真出典:https://tokyosamplesale.com/index.html/?p=5334

 

ところが、昨今のアパレル不況や世情の変化の影響か、2019年4月に株式会社エイ・ネットとのライセンス契約が終了し、国内の“ツモリチサト”のショップは全店閉店となってしまいます。

津森千里さん自身の現在の事務所であるT.C.が、“ツモリチサト”のブランド事業を引き継ぎ、今後はバイヤーや顧客向けにアパレル製品の「受注生産販売」を行っていく、ということです。

津森千里さんは、DOW?としても非常に深刻にとらえている問題に言及しています。
それは、世の中で「衣服ロス」と呼ばれている問題です。

 

衣服ロスとは、アパレル商品(洋服・アクセサリー・小物など)が、消費者の手に渡って着用されることもなく、新品のまま大量処分されている問題のこと。

日本では、1年間で約29億着の衣服が供給されています。しかしその29億着のうち、半分以上もの数である15億着が、毎年売れ残っています。
売れ残りの15億着の一部はセールやアウトレット販売、大幅値下げなどで売りさばかれ、かろうじて消費者の手に渡ることもあります。

それでも、15億着のすべての洋服を大幅値下げして販売できるわけではなく、値下げしても売り切れない洋服も存在しています。

 

アパレル製品は、毎年のトレンド(流行)の移り変わりが、売り上げに著しく影響します。
売れ残った商品を、トレンドの変わってしまった翌年のシーズンに大幅値下げしてブランドショップの店頭に置くことは、「せっかくのブランドイメージを下げてしまう」というリスクも付きまといます。

そんな事情から、大きく値下げした売れ残り商品を店頭に置くことは、アパレルブランド側が自発的に忌避(きひ)することもあるのです。

 

そして最終的な結果として、15億着のうち多くが、新品のまま廃棄される道をたどっているのです。
もちろん、この衣服大量廃棄の陰には、これにかぎらず複雑な要因がいくつかからみ合っています。消費者が必要とする需要(ニーズ)の数に対して、そもそも供給が多すぎている、という事実もあるのでしょう。

洋服は、綿花を摘み取って作った布(コットン素材)や、石油を合成して作った布(化学繊維)などからできています。
いうまでもなく、衣服を必要以上にたくさん生産したあげくに、ゴミとして焼却処理したり埋め立て処理して済ませているのは、地球の自然環境に多大な悪影響を及ぼしています。

津森さんは、“ツモリチサト”の洋服製造が受注生産体制に変わったことについて、受注生産なら、こんな病的な「衣服ロス」を生み出してしまうこともない、と発言しています。

店舗も全店閉店し、“ツモリチサト”が洋服ブランドとしては縮小してしまったことに関しても、津森さんは、ポジティブな方向への転換…とも捉えているようです。

 

“ツモリチサト”は、受注生産体制を採った2020年のコレクションで、ポリエステルといった人工の化学繊維ではなく、シルクなど自然由来の素材を使った新作を発表しました。

これはおそらく、大企業である「イッセイミヤケ」グループ傘下で”ツモリチサト”ブランドを運営していたときには、コスト面や効率的に不可能であったことでしょう。
(※多くの場合において、シルクやコットンなど自然由来の繊維より、ポリエステルなどの人工繊維の方が洋服素材としては安価であるため。)

 

シルクなどの自然由来の繊維は、着用されたのちに処分する際、有害物質が発生することもなく、土壌を汚染することもありません。

未来の地球環境にも優しい自然繊維を洋服に用いることは、長年ファッションデザイナーとしてたくさんの服を作り続けてきた津森千里さんの、地球に対するせめてもの恩返しのようにも思えます。

ファッションデザインの力で世界を変えていくことはできるのか

 

エネルギッシュに”ツモリチサト“ブランドを動かしてきたファッションデザイナー・津森千里さんの2021年までの活躍をご紹介しましたが、いかがでしたか?
サスティナブルな観点や、これから先の販売戦略も含めて、2021年以降は”ツモリチサト“がどんなふうに展開していくのか、非常に興味深いところでもあります。

DOW?は、「ファッションデザインの力」を信じています。
美しい洋服を製作して世の中に華やぎをもたらし、人々にファッションに彩られた素晴らしい人生を楽しんでもらいたい。
DOW?は、そう強く願っています。

そして、「ファッションデザインの力」があれば、「衣服ロス」のような困難な問題にも、共に手を取り合って力を合わせ、解決へ向けて立ち向かっていくことができるのではないだろうか、と考えています。