折り目正しき“イングリッシュファッション”
この国の正式名称は、「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」。でも、この正式名称、長すぎて日本に住む人は忘れがち!
わたしたちのよく知っている通称は、「イギリス」!!
「イギリス」と聞くと、みんないろんなイメージが思い浮かぶのでは?
「バッキンガム宮殿、エリザベス女王の統治!」
「アーサー王伝説、シェイクスピア。ファンタジー文学(指輪物語やピーターパンやハリーポッター)!」
「シアター文化、演劇文化!」
「大英博物館の世界各国の所蔵品!」
「クリケットとかサッカー!」
「ビートルズ、ロック音楽!」
欧米社会はもちろん、世界中のカルチャーを引っ張ってきた、文化リーダー国家…ともいえるイギリス。
歴史もとても長く、ケルト神話・アイルランド神話・スコットランド神話・ウェールズ神話など、イギリスという土地にキリスト教が根付くまでの古代、地方によってさまざまな神話や文化が存在していたようです。
そんな長くて骨太な歴史こそが、文学や演劇や音楽など、イギリス発の素晴らしい文化のベースとなっていったのでしょうね!
しかしもちろん、この記事で語りたいのはイギリスの「ファッション」!!
イギリスは、ファッション文化、服飾の文化もとっても面白いんです。
イギリスのファッションは実質的だけどオシャレで、折り目正しくて、「正調」「正統派」というコトバがぴったりのブランドが多いように思います。(バーバリーやアクアスキュータムなど)
それからそんな「正統派英国スタイル」を華麗に崩していった、モダンでハイセンスなオシャレブランドもたくさん!(ポール・スミス、ヴィヴィアン・ウェストウッドなど)
イギリスという国の人たちは、むかしながらの上流階級のカルチャーを、現代の庶民もめいっぱい楽しんでいる、ちょっと知的なお国柄…というイメージがあります。
歴史的なたてものや書物、絵画や音楽など、古き良きものをアンティークとしてとっても大事にする、という非常に理知的な部分があるのも、イギリスの人びとの素晴らしいところではないでしょうか?!
「世界のファッション文化を知りたい!」は、世界各地の文化を「その国発祥のファッションブランド」から見てみる、というコンセプトの記事です。
それでは、華麗なるイギリスのファッション文化を覗いてみましょう!
イギリス王室も信頼を寄せる実力! バーバリー
バーバリー Burberryは、一般的に「イギリスを代表するファッションブランド」である、と言われています。
確かに、イギリスのファッションブランドと聞けば、一番に思いつくのはバーバリーでしょう。
バーバリーの、あの有名なチェック柄は「バーバリーチェック」と呼ばれています。
確かに一目見れば、「あ、バーバリー製の洋服を着ているんだな」とわかりますよね。
現在のバーバリーは、主に洋服とバッグを製造・販売しています。
商品ラインナップには婦人用のドレス・ワンピースや、紳士用ブレザー、カジュアルシャツなどもありますが…。
「バーバリー」といえば、みなさん、「アレ!あの、春も秋も活躍する薄手のコート!」と、まっさきに言うのではないでしょうか?
そう、その名は「トレンチコート」ですね!
バーバリー社は、イギリス王室御用達のファッションブランドでもあります。
1919年に、ジョージ5世から「コート・ジャケット部門」の「ロイヤルワラント」(※ロイヤルワラント=イギリス王室御用達の意)を授けられています。
(補足:バーバリーへの最新のロイヤルワラント授与は1989年。チャールズ皇太子より「コート・ジャケット部門」のロイヤルワラントを授けられている。)
イギリス王室もやっぱり、コート・ジャケットではバーバリー社の品物の右に出るモノは無いだろう!!と考えているんでしょうね。
「王室御用達」って、とっても素敵な響きですよね。一流品であり、ロイヤルファミリーから信頼されているというしっかりした証があると聞けば、一度はあの「バーバリーのトレンチコート」に袖を通してみたい…と思ってしまうものです。
まさに、「憧れの逸品」だと思っている人も少なくありません。
そして実は「トレンチコート=バーバリー Burberry」という図式が成り立ってしまうほど、バーバリーのトレンチコートは歴史的にも「正統派」なのです!
超老舗ファッションブランド「バーバリー」の最初の一歩
1856年、日本の元号でいうと安政2年~3年のころ。
つまり、日本に江戸幕府があったころです。ええ…っ?!江戸時代?!と驚いてしまうのですが、バーバリーというファッションブランドはこのころ、最初の一歩を踏み出しました。
イギリスのハンプシャー州で、トーマス・バーバリーという名前の21歳の青年が洋服店を開いたのです。
最先端の服を提案するファッションブランドとして、いまも第一線を走り続けるバーバリー社がまさか江戸時代に創業していたとは…。
そんな超・老舗だったとは、思いもしませんでした。
さて、店を開いたバーバリー青年は、販売する洋服について理想を持っていました。
洋服とは、「イギリス特有の雨の多い気候の中でも、人々が快適でいられるようなものでなければ!」…と考えていたのです。
実はこの考えこそが、のちに「バーバリーのトレンチコート」を生み出していくためのパワーになるのです。
農民の作業着?レインコート?トレンチコート生地の開発秘話
ところで、バーバリー社製のものをはじめ、トレンチコートの生地って、ツルッとしていて、なんだか独特ですよね。
コットン素材ともポリ素材とも少し違う感じで、雨や泥も付きにくくて、そこそこの風なら防いでくれるし、密度が高い感じで、薄いのにしっかりしている…。
このトレンチコート生地、実は開発そのものも、バーバリー社が手掛けたものなのです。
バーバリーの開発したトレンチコート生地の名前は、「ギャバジン 英語:Gabardine」といいます。
1879年に、バーバリー創業者のトーマス・バーバリー本人が発明しました。
この時点では、まだトレンチコートじたいは開発されていません。
トレンチコートより先に、その生地が開発されたのですね。
ギャバジンは、開発後の1888年にバーバリーが特許を取得した、当時最先端の布地でした。この生地の原材料繊維は、ウーステッド(梳毛/そもう)やウーステッドコットン。
ウーステッド(梳毛)とは、ウールの撚糸(よりいと)のことで、ビジネススーツの生地などによく用いられます。ウーステッドコットンとは、同じくコットン(綿)を撚糸にしたもののようです。
ギャバジンは、これらの原材料繊維を織り上げる前に防水加工をしておき、その後しっかりきつく織り上げていく、というように作られたそうです。
ギャバジンの生地で作った上着は細かな雨を弾き、強い風も防いでくれ、そのうえ丈夫で通気性がよくて、軽いのです。
ゴム引き布製の服などより、よほど使い勝手の良いギャバジンの布でできた服は、「レインウェアに革命をもたらした」と、バーバリー日本版公式サイトにも記されています。
【バーバリー 日本版公式サイト バーバリーの歴史https://jp.burberry.com/our-history/】
カッコイイ開発ストーリーですが、実はトーマス・バーバリー氏は「農作業をする農民の着ている、汚れがつきにくい上着を見て、ギャバジン生地の開発のヒントにした」のだそうです。
なかなか、これもおもしろいウラ話ですよね!
ついにトレンチコートが誕生!“トレンチ”の意味とは?
トーマス・バーバリーがギャバジン生地で特許を取得してから30年弱たった1914年、第一次世界大戦が始まってしまいます。イギリスも、激しい戦渦に巻き込まれることになります。
ヨーロッパにおける第一次世界大戦の戦いは、「塹壕戦(ざんごうせん)」が非常に多かったのだそうです。
「塹壕(ざんごう)」とは、敵からの銃弾が味方の兵士に当たらないよう掘った穴、または溝のことで、その中に潜んで、銃で敵を迎え撃つのです。
余談ですが、「指輪物語」を世に送り出したイギリス人言語学者のJ.R.R.トールキンも、若いころに第一次世界大戦に参加し、激しい塹壕戦を経験しました。
そして、むごい戦闘と、塹壕熱(ざんごうねつ 塹壕内で発生する感染症のこと)によって、たくさんの戦友を亡くした…というように述べていた記憶があります。
話を元に戻しましょう。
バーバリーは、このすさまじい塹壕戦を勝ち抜くための軍服開発を、イギリス軍部から依頼されます。
そう、「トレンチコート」の「トレンチ」とは、英語で「塹壕」のことです。
きっと雨の多いイギリスでは塹壕の内側もジメジメしていて、寒くて不衛生だったのでしょう。
トレンチコートは、手りゅう弾・剣(※第一次世界大戦では戦闘時、剣も用いられた)・水筒を腰に固定できるD字型リングを留め金として取付け、塹壕に降り注ぐ雨も服から流れ落ちやすいよう、構造的にも工夫して作り上げられました。
そしてトレンチコートの生地はもちろん、バーバリー自身が開発した、悪天候に強い「ギャバジン」を使ったのです。
バーバリーが開発したトレンチコートは、ぬかるんだ寒い塹壕のなかでも、雨をはじき、風を防いで、戦う兵士の上着として活躍しました。兵士の命を守り抜く大切な衣服として、第一次世界大戦の戦場で、とても重宝されたのです。
「バーバリーのトレンチコート」から見えたイギリスの人たちの知性
すっきりと美しくて知的な印象のトレンチコートは、実は軍用の、実用的なミリタリーウェアとして開発された…これはかなりびっくりですよね。
いまも当時のかたちを色濃く残したまま、現代、世界中の人たちがスタイリッシュにトレンチコートを着こなしているのを見ると、とてもふしぎな感じがしますね。
塹壕で戦うイギリスの兵士の命を守るため、考え抜かれて作られたコート。
必要に迫られて、戦略的に計算されつくして作り出された「トレンチコート」の開発ストーリーは、とても知的なお話だと思います。
バーバリー創業者のトーマス・バーバリーさんは、ただの洋服屋じゃなくて、戦場で使える服を作れるくらい、とても賢かったのでしょうし、やはり知識や知恵を大切にする「知的な」国民性を持つイギリス人ならではのファッションアイテムだなあ…とも思うのです。
トレンチコートの形としての美しさ、オシャレさは、命を守るという実用性のあとからついてきた…そんな印象ですよね。
ファッションブランドから見えた「イギリス」
「世界のファッション文化を知りたい! イギリスとバーバリー編」、いかがでしたか?
あなたの身近なあのファッションアイテムも、開発ストーリーを調べてみると意外なお話が隠されているかもしれませんね!
筆者としてはこれからも、異国を旅していくように、世界中の国々のファッションブランド、そしてそのブランドが開発したファッションアイテムについて、ご紹介していけたらいいなと思います。
この記事を提供しているのは、デザイナーズ・オフィス・ウェアのDOW?です。
DOW?は、才能あふれるファッションデザイナーの皆様と協力し、実用性と美しさ、スタイリッシュさを兼ね備えた、いままでにない新しいウェアを開発しています。