第5回 ファッションデザイナーの基礎知識:平面から立体へ

ファッションデザイナーが頭の中にあるイメージやデザインのコンセプトなどをファッション画として描いたら、次の作業はイメージを平面から立体化すること。
この作業に欠かせないのが「パタンナー」という職業です。

私たちが今着ている洋服は、ファッションデザイナーが描いた平面のファッション画をパタンナーが「パターン」という型紙に起こすところから立体化されています。
ファッションビジネスにおいても、洋服の品質はパタンナー次第と言われるくらい重要な役割を担っている職人なのです。

 

パタンナーとは?


パタンナーはデザイナーが描いた絵をパターン(型紙)に起こす職業の人のこと。
ファッション絵に描かれているデザイナーのメッセージや意図を実際に着ることができる洋服にするためには、平面から立体にするための複数のパーツが必要になります。
パタンナーはファッション画に書かれた情報を読み取り着心地の良い洋服に仕立てるために、どういうパーツを作ってどう組み合わせれば良いのかを考えて形にしていく職人で、洋服の仕上がりの美しさに最後まで関わるとても重要なお仕事なのです。

 

パタンナーの主な仕事の内容


パタンナーはファッションデザイナーからファッション画を受け取ると、書かれている情報に従って指定の生地や装飾品を揃えてデザイナーがイメージする洋服を作り上げていきます。
そのためには生地を正確に裁断する技術や寸分のズレもなく縫い合わせる縫製技術が求められることになります。

また、1枚の平面生地を複数のパーツに分けて、私たちの身体のラインにあうような立体の洋服に仕立てるわけなので、着心地の良さや見た目(シルエット)にも気を配ることができるセンスも必要です。
ファッションデザイナーが意図するデザインを実際の洋服として形にしていくためにはコミュニケーション能力も欠かせません。
パタンナーの腕が要求される仕事には、主に次の3つの工程があります。

■トワルチェック
トワルチェックは簡単に言うと型紙(パターン)補正になります。
ファッション画に基づいて作ったパターンを人型のボディにピンで留めて仮の着付けをします。この状態でデザイナーとパターンをチェックすることをトワルチェックと言います。
トワルチェックではデザイナーから細かい修正が入るので、指示どおりにパターンを直していきます。

■サンプル確認
できあがったパターンを使って実際に生地を裁断して縫い合わせ、サンプルを作成します。このサンプルがファッション画の指示どおりに従って作られていることを確認します。
ここで作ったサンプルは展示会に並べてバイヤーとの交渉に使われることになるので、失敗は許されません。

■工業用パターン(量産用パターン)の作成
工業用パターン(量産用パターン)と呼ばれる2つめのパターンを作成します。(のちほど詳しく解説します)
工業用パターンでは複数のサイズを展開するためにグレーディングと呼ばれる作業が行われます。
グレーディング(grading)は パタンナーの起こした標準寸法の型紙(パターン)をもとに、大小のサイズの型紙を作ること。
標準寸法の型紙を縮小拡大して必要なサイズにあわせるのですが、近年はこの作業にアパレルCADというソフトを用いることもあります。
効率化につながりますが、パタンナーはソフトを操作できる技術も求められることになります。

 

パタンナーがつくる「パターン」とは?


ファッションデザイナーからファッション画を受け取ったパタンナーは、そこから寸法や形が具体的に描かれたパターン(型紙)を起こしていきます。
パターンには「ファーストパターン」と「工業用パターン(量産用パターン)」があります。

ファーストパターン

ファーストパターンはファッション画に基づいて作られる型紙です。
展示会に出品するサンプルは、このファーストパターンから作られます。
ファーストパターンから縫製したサンプルは、ボディに着せてデザイナーと一緒にチェックして修正点を探します。
このパターンチェックは何度か繰り返すことになるので、このときは根気強さが求められることになるでしょう。
腕の良いパタンナーの仕事になると、デザイナーが思っていた以上の形の洋服ができることもあります。

工業用パターン(量産用パターン)

展示会で取引を終えた後に、受注内容に従って改めて作られるのが工業用パターンになります。
展示会ではバイヤーから様々な要求や意見が出されます。ファッションデザイナーはこれらの要望に応じてパタンナーと一緒にパターンに修正を加えて大量生産用の工業用パターンを作るのです。
この工業用パターンで再度サンプルを作り、縫製工場はサンプルと指示書に基づいて大量生産をします。
こうして作られた洋服を私たちが着ているわけです。

 

パタンナーが作る「サンプル」とは?


サンプルは展示会や縫製工場で大量生産する前に作られる商品見本のための洋服です。

展示会用のサンプル

展示会用のサンプルはファーストパターンから作られます。
展示会に出品する分だけサンプルも必要になるので、1度の展示会で数十着作ることも珍しくありません。

デザイナーは出品したサンプルをバイヤーとチェックしながら、受注につながるように自ら交渉を進めていきます。
このときバイヤーからは様々な要望が出されるので、パタンナーはデザイナーと一緒に要望どおりの洋服が作れるようにパターンに修正を加えていきます。

大量生産前のサンプル

展示会でバイヤーと取引をした後、要望にあわせてファーストパターンに修正を加えて工業用パターン(量産用パターン)を作成します。完成したパターンで再度作ったサンプルが大量生産前のサンプルになります。
ここで作ったサンプルは縫製工場で見本となります。工場ではこのサンプルとファッション画(指示書)に基づいて、求められる量を生産するのです。

 

パタンナーを目指すには?

パタンナーとして仕事をするために必要な資格はありません。
しかし、少なくとも正確な裁断技術と製法技術、生地に関する知識、アパレルCADの技術は必要です。
仕事の現場ではこれらの技術が即戦力として求められるため、ファッション系の専門学校や短大・大学の服飾学科で学んでから就職するのが一般的です。

学校卒業後はアパレルメーカー、縫製工場、ファッションデザイナーの個人事務所などに就職して腕を磨いていきます。

どちらかというと独創性や創造性よりも、デザイナーと意思の疎通を図り、意図しているものを形にできる正確さや根気強さが問われる職業になるでしょう。
ただ、デザイナーに言われるままにパターンを作るだけではなく、デザインを損なうことなく着心地の良さを追及したり、デザイナーが想像していた以上の仕上がりを提供できれば、この世界に欠かせない唯一の存在となり、フリーで活躍することもできます。

ファッションデザイナーと二人三脚で行う仕事になりますが、パタンナーがいなければデザインされた洋服が世界にはばたくことは決してありません。
ファッション業界では欠かすことができない職業ですし、デザイナーにとっては最高のパートナーとなる存在です。