第4回 ファッションデザイナーの基礎知識:ファッション画(デザイン画)を描く

ファッション画(デザイン画、ファッションデザイン画)はファッションデザイナーの頭の中にあるデザインイメージを平面に描いたものです。
皆さんが思い浮かべるファッション画はこのイラストのようなものではないでしょうか?

こちらもファッション画と言えるのですが、ファッションの仕事の現場で用いられる絵にはいくつかの種類があり、たくさんの文字情報が書き込まれています。

ファッション画の役割

ファッション画は作りたい洋服のイラストというだけではなく、デザインに関わる要素を具体的に表現してある説明図と言えます。
ファッションデザイナーはファッション画を描きながらどのような生地で洋服を作るのか、装飾はどうするのか、ボタンの素材は?ファスナーは?と考えながら様々な情報をファッション画にメモしていきます。

逆に、先に企業や所属会社と打ち合わせをしてコンセプトを絞って生地を選定して、指定された条件の中からデザインを考えファッション画にしていくこともあります。
いずれのパターンであっても、1枚のファッション画が制作に関わる全ての工程で欠かせない説明書になるのです。

 

ファッション画の種類

スタイル画

スタイル画は洋服を人物に着せてポーズを取らせた画のこと。洋服の動きが伝わりやすくなります。

イメージ画

簡単な線を使って洋服の雰囲気を表現したものです。
企画の前段階でイメージを伝える場合や、現段階ではあえて具体的にイメージを伝えたくない場合などに描かれます。

ハンガーイラスト、デザイン画

洋服のみの絵のこと。洋服を人物には着せず、ハンガーにかけたような状態に描きます。
平絵、平面絵などと呼ばれることもあります。

モード画

より芸術性や絵画性が加わったファッション画です。
洋服の説明書としての要素もありますが、広告に使用するイラストになったり洋服を販売するお店の装飾に使われることもあります。

 

ファッション画を描く作業


ファッション画を描く作業にルールはなく、ファッションデザイナーの個性がよく現れます。
あるデザイナーはイラストに使用するボタンや生地の情報を丁寧に書き込み、1枚のファッション画で全ての情報がわかるようにしています。
ファッション画とは別に生地の情報をまとめた書類を作るデザイナーもいます。どの生地をどのファッションに使うのかを生地ベースでまとめるのです。

描いてから生地を選ぶ。生地を選んでアイディアを出していく

頭の中にあるイメージを画に描いていく人もいれば、まずは使いたい生地を選ぶことでインスピレーションを得てアイディアをファッション画にしていく人もいます。

イメージを作るよりも生地を先に選ぶことを不思議に感じる人もいるかもしれませんが、生地はイメージを洋服として表現するためにもっとも大きな要素です。
デザイナーでなくとも洋裁を趣味にしていと、お店で出会う新しい生地に「これでどんな洋服が作れるかな?」とワクワクすることもあるでしょう。
同じように、新しい生地と出会うことが創作意欲を刺激してくれると言うデザイナーもいるくらい生地選びは大切なのです。

その洋服は誰が着るの?

ファッションデザイナーの役割とは?仕事の流れをご紹介!の中で、「ファッションデザイナーはある程度の制限の中で最高の結果を生み出すことが求められている職業」とご紹介していますが、新しくデザインした服は誰が着るためのものなのかも考えながらファッション画にしていく必要があります。

女性向けなのか男性向けなのか、ジェンダーレスとして作りたいのか。年齢は何歳くらいなのかなど、ターゲットの外見でも求められるデザインは変わってきます。
どのようなところで生活しているのかなど、住んでいる環境によっても使用する素材が変わってきます。
予算を考えると、やりたいことを全部詰め込むのは難しいこともあるでしょう。

制限は足枷となってしまうこともありますが、デザインのイメージを膨らませるうえでは大切な要素と考えることもできます。

ファッションデザイナーはこれらのあらゆる情報と自分の中にある表現したい意欲をかけ合わせてファッション画を描いていくのです。

 

ファッションデザイナーが画を描く道具とは?


意外かもしれませんが、実際のファッション画を作る作業では、紙、鉛筆、色鉛筆、シャープペン、マーカーなどアナログの道具で描いていくデザイナーもたくさんいます。
描き方は本当にデザイナーによって異なりますが、ここではファッション画作成によく用いられるパターンをご紹介します。

★下書き→着色
・シャープペンとデッサン用のペンを使って下書きをして、実際に使用する生地とできるだけ近い色のマーカーやペンで着色する。
・鉛筆で下書きをして色鉛筆で着色する。

★着色なし
鉛筆で線を描いて着色はなし。

★アナログとデジタルのミックス
鉛筆で下書きをしてパソコンに取り込んで、デジタルで着色。

★デジタル
描画ソフトを用いて直接パソコンやタブレットで作成する。


ファッション画で描かれる人物は本当の人間よりも背が高くスレンダーで、正しいプロポーションではないことがよくあります。手足が誇張されていたり、顔がしっかり描かれていないことも多いです。
なぜこのような描き方をするのかというと、全ては洋服に焦点を当てるため。
顔を小さく手足を長くすると洋服の動きがわかりやすくなりなりますし、表情が丁寧に描かれていない方が洋服に集中することができるためなのです。

指示書としてのファッション画

ファッション画にはただイラストが描いてあるだけではなく、様々な情報が書き込まれることになります。

・誰をターゲットにしているのか?
・どのような生地で作るのか?
・どのような糸を織って生地にするのか?
・装飾品は?
・ファスナーはどこにどうつける?
などデザイナーが伝えたい情報やテーマが文字情報で詰め込まれます。
使用する生地は実際の生地見本が貼り付けられます。

 

デザイン画を見てインスピレーションを得よう!

ファッション画についていろいろ解説してきましたが、インターネットで検索すればたくさんのファッション画、デザイン画がみつかりますのでぜひ探してみて下さい。

書籍としてまとまったものもあり、「ケンゾー(KENZO)」でパリを拠点に活躍した日本を代表するファッションデザイナー高田賢三氏のプライベートコレクションからファッションデザイン画が300点以上収録された書籍「高田賢三 ファッションデザイン画アーカイブス」も販売されています。

こちらには高田賢三氏直筆のファッション画や、1着のウェディングドレスがデザイン画となってショーに登場するまでの流れをカラー写真で解説してある過程もあり、本物のファッションデザイナーの仕事をじっくりと知ることができますよ。
服飾系の学生やファッションデザイナーを目指す人にはぜひ1度手に取って欲しい書籍です。